「お? なんだ、食っていいのか?」
欲に忠実な悪魔であるので、くれるといったものは遠慮なく口にした。
「うん、うまいな。気に入った、もう一個」
クマに催促されて、公一は笑みを見せた。
「ですがこの甘味、動物にとっては毒でもあるようですね」
「おれ、見た目は鳥にしたけど動物じゃねえから効かねえぞ?」
「それは承知の上です。これから朝食の時間になりますが、クマ殿にはチョコレートを提供しましょう。その間は、ここで、おひとりで、お食べください」
最後をやたらゆっくりはっきりと言った公一。
琴理にはその意味がわからなかったが、心護は顔を明るくさせていた。
「おお、そんくらいいいぞ。メシが終わったら娘の影に戻っていいってことだな」
「かいつまんで言えばそういうことです。今後、チョコレートの提供と引き換えに、食事の時間は琴理様から離れていること、よろしいですね?」
「そんくらいならな、構わんよ」
承諾を受けて、公一は再びチョコレートの載ったトレーを差し出した。
クマとは感覚がつながっているためその解除まではいかないが、物理的に離れていられるのは嬉しい。
琴理だって年頃の女の子。悪魔なんて存在を四六時中身近に感じているのはしんどい。
己が振りまいた災禍(さいか)、自業自得だと自分に言い聞かせて納得させようとしてきたけど、公一の心遣いが嬉しかった。
「おい、もう一個寄越せ」
「チョコレートはひとつを味わって食べるものですよ。ですがもうひとつ欲しいようでしたら、もうひとつ約定を設けましょうか」
「……従者、かなりやり手だろう」
公一とクマの間で、火花の散る応酬がされていた。チョコレートをかけて。
「琴理、行こうか」
すっと、心護が手を差し出した。
「はい」
しかし琴理はその意味に気づかず、すっくと立って扉まで向かう。
……行き場を失った心護の手が哀しく震えていた。