「はい、そのことについてはまた改めて……はい。わかりました。失礼致します」

そう言って、心護は通話を切った。

ふう、と息をついたと思ったら心護の肩が下がった。

「いつもながら……花園殿と話すのは緊張する」

「父様、はた目にも怖いですからねえ……」

強面ではないが、雰囲気が厳しいのが琴理の父だ。

そのときふとあげた視線が心護とぶつかって、琴理と心護、双方でばっと顔をそむけた。

「で、でも反対とかはされなくてよかった」

「そ、そうですねっ。愛理を怒らせてしまったのは心苦しい限りですが……」

ふたりの初々しい様子を見守る公一は仏のような顔になっていた。

もう好きにしろ、という感じである。

しかしこのまま甘酸っぱい雰囲気でいられるのも公一的には困るので口を開く。

「さて、心護様、琴理様。花園様の承諾も得られたことですし、今日は朝食のあと色々と動きますよ」

「そうだな」

「はい」
 
――琴理がまずやることは、母屋に住む当主夫妻、心護の両親への挨拶だ。

「ではおれも行くとしよう」

にゅっと、再び琴理の影から小鳥が顔を出した。

そこが住処になってしまったクマである。

「ふざけるな。一緒に行かせるわけあるか」

本当はクマの頭を掴んで力の限りぶん投げたいが、そんなことをしたら痛みや衝撃が琴理にもいってしまうので断腸の思いで耐える心護。

「ははん、俺が名前をつけられて娘に危害を加えられない分、跡取りたちは俺に危害を加えられない。天秤が釣り合ってるじゃないか」

羽を広げて、わざとらしくやれやれといった感を出すクマ。

心護たちがクマを傷つけられないというのは、琴理に同じ痛みがいってしまうからであって、物理的に出来ないという話ではない。

だが、心護も宮旭日家に属する人間も、それは出来ないとクマは踏んでいた。

公一と詩にとっては心護が主人で、心護は自分の命よりも琴理を大事にしていると、昨日の森の中で出会ってから見てきたこの人間たちの行動でわかっていたからだ。

クマにはさしたる目的はない。

琴理に召喚されてしまったので、契約もせず契約の成就もないこのままでは自分が元いた世界に帰ることは出来ないが、別に帰りたいとも思っていないのだ。

なので今クマは、遊び半分の気持ちでふらふらしていた。

心護はじっとクマを睨みつける。

クマは余裕綽々で口元をゆがめる。

「まあ、おれには気を付けることだな、跡取り。子どもには興味はないが、女は好ましい」