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「もしもし? あい――」
『姉様!!!! ご無事ですか!?!?』
耳にキーンと響いて琴理は思わず携帯電話を耳から離してから、慌てて言った。
「無事よ、何もないです」
本当はとんでもないことをしでかしてしまったが、これ以上妹を悩ませることはしたくなくてそんな風に言った。
ごめんなさい、愛理、父様、母様、と心の中で謝る。
『宮旭日様の家にいらっしゃるって聞いたときは驚きました』
「ええ……騒がせてしまってごめんなさい」
朝食の前の時間に、琴理は花園の家に電話をしていた。
応接間のソファを借りて、隣には心護と、傍に公一が控えている。
『何がありましたの? 誘拐ならば宮旭日様といえど大事(おおごと)ですわ』
「いえ、違うのよ、愛理。その……わたしがちょっと家を抜け出てしまって……」
『姉様が!? 花園に何かご不満でも!?』
愛理が驚愕の悲鳴をあげる。
「そうではないわ。その……」
……なんと言えばいいのだろう。愛理のためという琴理の独りよがりを、どう説明したらいい。
「もしもし、愛理さん? 宮旭日心護です」
琴理が返事に詰まっていると、心護が隣から声をはさんできた。
『宮旭日様? ……姉様の許嫁であることは承知しておりますが、今回の件はどういうことなのでしょう?』
愛理の声がトゲトゲしていて、怒っているのがよくわかる。
「琴理と一緒にいたいので連れてきた」
『………! 誘拐ですわね!?』
心護の端的すぎる説明は、愛理の怒りの火に油を注いでしまった。