「ありえません。出逢って一目惚れでそれ以来琴理様一筋だと、父も叔父も宮旭日の方々も、みんな言っています。ですがぱっと見は『完璧な跡取り』ですので、言い寄って来る方はいるようですが……」

「……」

つん、と、胸の奥が痛くなった気がした。

「ですが、すべて袖です。完璧にお断りしておられるようです」

涙子は自信満々にそう言った。

「………」

心護には裏というのが全くないのだろうか。

聞くたびに、昨日琴理を助けに来てくれたままの姿の心護が出てくる。

本当に、今までたまに逢うだけだったときの心護はなんだったのかと思うくらいだ。

涙子がふわっと優しくほほ笑んだ。

「我々も、旦那様も奥様も、琴理様がこの屋敷にいらしてくれるときを心待ちにしておりました。今回はちょっと乱暴なやり方だったようですが……私も、誠心誠意、琴理様にお仕えさせていただきます」

と、改めて涙子が頭を下げてきた。

確かに強引な方法だったが、原因は琴理にあるので責められることではないと思っている。

琴理が答えることはひとつ。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

深く頭を下げた。