心護の説明に異論はなかったのか、クマは羽で頭をかきながら「うわー」とぼやいた、
「久々に出てきたからナマってたわー。まいっか。娘、面白そうだから手を貸してやるよ。――うわっ」
クマが言った途端、ザンッと刃が振り下ろされた。
「琴理様に恩を売るつもりですか? 阻止しましょう」
詩だった。冷徹な目でクマを見据えている。怜悧な眼差しに、琴理の背筋が冷えた。
「やり過ぎです。琴理様が引いてます」
やんわりと詩をたしなめた公一に、琴理は少し助けられた心地になる。
クマは羽をさっと振る。
「別に恩なんか売らねーよ。俺は楽しいことが好きなだけ。愉快にいられりゃそれでいいのさ」
「……どうします、若君」
詩はまだ怒りが収まらないのか、ぶすっとした顔で心護を見やった。
「そうだな……」
少し考える風に中空を見つめた心護が、すっとクマへ視線をやる。
そしてにこっと笑ったかと思うと、琴理の隣を離れ、がしっと小鳥の頭を掴んだ。
「!」
「な、何をするっ」
「琴理の影に潜んで付きまとうとか、お前ストーカーか?」
「いや別におれが望んだわけじゃねえんだけど――痛い痛い痛いっ」
「痛いです痛いです痛いですっ」
「え?」
「「「え?」」」
心護がぎゅうっとクマの頭を掴んだとき、何故かクマだけでなく琴理も悲鳴をあげた。
そして心護に続き、公一、詩、クマもきょとんと琴理を見た。うっすら涙を浮かべる琴理がいて。
「あー、やっちまったー」
「琴理!?」
ぼやくようなクマを投げ捨てた心護が慌てて琴理の隣に戻ると、琴理の締め付けられるような頭痛は収まった。
(え?)
「琴理、大丈夫か? 急にどうした」
「いえ……わたしも何がなんだか……」
「娘がおれを呼び出したことの代償だな」
机の上に舞い戻ったクマがふふんと言った。