詩が言うと、タンと襖が開いた。

何故か心護もお怒りらしい。

にっこり、詩が微笑む。

「あら。可愛い琴理様が可愛いお部屋にいるのを想像してにやついておられましたか? その姿を見たいとお思いでいらっしゃいましたね?」

「っ」

詩の笑顔で攻撃するような言い方の言葉に、心護は硬直した。

「……深夜に女性の部屋を訪ねるのは紳士ではありませんねえ。そういう仲なら、また話は別でしょうけれど」

琴理に聞こえないように、詩がぼそっと言った。

心護、クリティカルヒット。

公一といい詩といい、心護のことをグサグサ刺しまくっている。

だが琴理には聞こえていなかったので、何か問題があっただろうか、とひとり不安になっていた。

「……こ、琴理……先ほどの話の続きがしたい。入ってくれ」

心護の回復も早かった。この三人の間では慣れたことなのだろうか。

「お邪魔します……」

琴理がそっと心護の部屋に足を踏み入れる。

低いベッドと文机、たくさん詰まった本棚のある和室で、整然とした、余計な物が一切ない部屋だった。

そこは心護の完全なプライベート空間のようで、襖で繋がった更に隣の和室へ案内された。

部屋の広さは倍になり、コの字型に、それぞれ独立したソファと中央に机がある。

だが来客用の部屋が私室の隣というのも物騒な気がしたので、私的な場面での来客用の部屋のようだ。

「琴理、さっきの話は詩さんも聞いて大丈夫か?」

心護が座ったところから斜め向かいになるソファに座るよう促された琴理は問われて、刹那考えた後うなずいた。

「はい。詩さん、わたしの面倒ごとに巻きこんでしまうのですが、よろしくお願いします」

「承知しました」

琴理が頭を下げると、詩は穏やかな顔で応える。

「詩さん、詳細はあとで公一さんから聞いてくれ。琴理、続きから話していいか?」

「はい。……愛理に必要なのは、解毒(げどく)です。ですが、母様にかかった呪いがどんなものか、完全にわかっていません」

「花園殿は、奥方の呪いは解いたんだよな?」

「はい。母様にかかっていたのは、命を蝕むものではなく、ただ、体力を削り衰えていく、『衰退』のものでした。それは表面上の呪いで、その奥に隠されていたのが、愛理に向けられた毒だったようです。そこまでは父様が解読されたのですが、その先はわからず……。『呪い』は解けても、『毒』は解けなかったのです……。犯人も、呪いをかけるのに頼った呪術関係の人間がいたようなのですが、そちらは……その……」

「殺されたか。その男に」