されるがままに連れてこられたのは二階の一室。

通ってくる途中に見た一階の部屋は襖がほとんどだったが、二階は洋風のドアが並んでいる。

外から見た造りは一階も二階も和の家だったが、内装とは違うらしい。

「こちらのお部屋をお使いください」

「そんなっ、そこまでしてもらうわけには参りません」

琴理が恐縮してそう言うと、若い女性はにこやかに頭を下げて下がってしまった。

残った女性はふふっと小首をかしげる。

「そんなこと仰らないでください。琴理様に拒否されては若君が落ち込みますので」

「何故そこで心護様が……」

「ご覧いただければ、わかるかと」

そう言って、女性がドアを開けた。

中に広がるのは『可愛い』を詰め込んだような部屋で。

ナチュラルカラーのフローリング、小花模様のクリーム色のカーテンに、薄い桜色のカバーのかかったベッド。カーテンの色に近い色のソファと、テレビ。窓際には机の椅子のセットもあり、棚やサイドボードにはちょっとした小物まで並んでいた。

「………」

勉強道具はほとんどを占める花園邸の自室と比べて、ぽけっとしてしまった琴理に、女性がにこやかに告げる。

「全部若君がお選びになったものなんです。琴理様はどれがお好きかと、散々悩みながら」

若君が選んだ? 若君とは、心護のことだろう。

琴理は、ギギギ、と音がしそうな動作で女性を見た。

目をまん丸に見開きながら。

「あの……お名前を訊いても?」

「失礼しました。私は若月詩(わかつき うた)と申します」

「若月さんって、心護様の傍にいらっしゃった……」

なんとなく女性の正体がわかって、琴理は少しだけ混乱が落ち着いた気がした。

「ええ、夫です。紛らわしいので、私のことはどうぞ詩とお呼びください」

「ありがとうございます。詩さん、ひとつお聞きしたいのですが、なんで心護様はそこまでわたしによくしてくださるんですか?」

「えっ?」

琴理の、自分の脳内では全然解明できない謎を問うと、詩は心底驚いているような反応を見せた。

「いえ、だって物心つくかつかないかの頃に勝手に決まった許嫁ですよ? なんでそこまで気を遣ってくださるのかわからなくて……」

琴理がうんうんうなると、詩は呆気にとられた顔をした後、ぷっとふきだした。

「あれ? わたしヘンなこと言いました……?」

「いえ……失礼しました。本当に若君は琴理様のこととなると不器用というか、子どもというか……。でも私から明かすと怒ると思いますので、それは今度若君に訊いてみてください」