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宮旭日邸は退鬼師の宗家らしく、広大な土地を有している。
車のまま門を入って左右に分かれる道があり、車は左手に曲がった。
すぐにたどり着いたのが、和風の二階建ての邸だ。
右側に曲がるともうひとつの離れがあり、心護の両親である当主夫妻が住む母屋は真っすぐ行った先にあるのだそう。
心護に導かれて、公一が開けた扉をくぐる。
来る途中で花園の家には帰さずに宮旭日邸に連れて帰ると言われたときはあんぐりと開いた口が閉じなかった。
てっきり花園邸に送られ、家の執事からこっぴどくお説教か……と思っていたので、何故そうなる、と混乱した。
だが道中の公一の説明によれば、琴理は、今ごろは既に宮旭日の家に慣れるためにこの家で生活していてもおかしくなかったらしい。
『おかえりなさいませ』
絢爛豪華というよりはシンプルで上品といった和造りの扉から入ると、いきなり声がそろった。驚いた琴理の肩がびくっと跳ねる。
玄関に入ってすぐに並んで出迎えたのは、この棟で働いているであろう人たち。
それぞれ動きやすい和服姿をしているが、こんな時間まで働く恰好でいいのだろうか、と思った。
だが、続く公一の言葉でわざわざ起きていてくれたと琴理は知った。
「皆さん、遅くまでご苦労様です。琴理様はご無事ですので、手はず通りに」
『はい』
公一の言葉にそう答えるのは、老齢の男性ひとりと若い男性がひとり、そして公一と同年代くらいの女性がひとりと、若い女性がひとりだった。
やはり琴理が勝手に家を抜け出たことを知って、待機してくれていたのだ。
申し訳なさに琴理がうつむき気味になると、
「さあさ、琴理様、こちらへどうぞ。ご無事で何よりです」
「それでは心護様、琴理様をお部屋へご案内いたします」
「え、あ、あの?」
女性二人に囲まれた琴理は、あっという間に連れていかれてしまった。
心護に問う余裕もないくらいの素早さで、「これからしばかれる!?」と心配になった。
なにせ、こんな夜更けにやってくる許嫁なんて非常識過ぎる。
そんな不安から琴理がガチガチに緊張していると、
「琴理様に関しましては若君が非常識過ぎるのでご心配することはありませんよ」
琴理を連れてきた二人の女性のうちの、公一と同年代くらいのひとりが、蒼白になる琴理にそう言った。
にっこりと笑顔だったので、琴理から少し力が抜ける。
害意のある笑みではなかったのだ。