心護が若月に滅多打ちにされていた。落ち込んでいる。
琴理は焦った。二人の仲に口を出すつもりはないが、ちょっと心護が可哀そうだ。
「若月さんっ、心護様って普段からこういう方なんですかっ?」
コソッと尋ねると、
「いえ、普段は文句のつけようのない完璧な跡取りをやっていますよ。琴理様のことに関してだけおかしくなるんです」
「わたしのせいなんですかっ!?」
「琴理様のせいではありません。若君ご自身のせいです」
「し、心護様の評判はすごいですよっ。最高峰の退鬼師とか、芸能人みたいなイケメンとかっ」
琴理が必死に励ます言葉を探していると、心護がすっと顔をあげた。
驚きの表情で琴理を見てくる。
「今、名前で?」
「あ、はい、そう呼ぶよう仰いましたので……」
「ありがとう琴理、自分の名前が大好きになった」
(……今のだけで?)
心護の匙加減が全くわからない琴理だったが、真剣な顔で言うので、「そうですか……」と返した。
「若君、今ので満足してくださいね。むしろ自分がひとつ言うことを聞いてもらったんだから、琴理様の願いも叶えて差し上げるべきですよ」
「そうだな。琴理、何かあるか?」
「わたしの……願いは……」
口にしていいものだろうか。でも、心護は否定せずに聞いてくれる気がした。
「愛理が……妹が、生きてくれることです……」
「そのことなんだが、話が脱線しまくったから戻したいんだが、呪いの毒を放ったという男はどうなった? もう釈放されているのか?」
「……獄死しました。逮捕されて、数日後に、自分で……」
「それでか……。いや、花園殿なら、後遺症もなく呪いを解くことも出来たはずだと思ったからなんだが……」
「そうですね。術者が死亡しているとなると、解呪の難易度は跳ね上がりますから」
「はい……」
琴理の母を呪った男は、自ら命を絶った。
人を呪わば穴二つ。
誰かを呪ったとき、呪いをかけた方もまた、呪われるのだ。
だから呪いを生業(なりわい)とする人間は、自分が呪われない方法も熟知している。