労わるような心護の声の響きが、琴理の胸を揺らした。

辛いのは愛理だ、母様だ、父様だ、と、琴理は自分の心を押し殺してきた。

琴理が口に出せる本音と言えば、愛理に向けられる『可愛いー!』『大好きわたしの推しー!』といったものくらいで。

――琴理が辛かったことを、琴理自身が認めてこなかった裏で、認めほしかった。

母が命の危機に陥ったこと、なかなか解呪が出来ない母のそばで、父がいつも泣いていたこと。

やっと危難を乗り越えたと思ったら、生まれてきた可愛い可愛い妹が呪いの毒に蝕まれていたこと。

成長するにつれて、いつ最愛の妹の命が儚くなってしまうか、不安で心配で、夜になると自分が泣いてしまうこと。

「泣いていい。今は、俺がいるから」

――その言葉は、泣きそうな顔の自分に気づいてなのか、そう言わせてしまう悲壮さをかもしだしていたからなのか、よくわからなかったが――琴理は、唇を噛んだ。

「ありがとう、ございます。ですが、泣くのは今ではないのです。……先ほどの……悪魔を呼び出したのは、愛理の呪いの毒を解くためでした」

「………」

「悪魔、ですか……」

心護は痛そうに目を細め、公一は落ち着きを取り戻して答えた。

「退鬼師の娘が悪魔と契約しようだなんて赦されないことだとわかっています。ですがどうか、父様と母様には言わないでください。お二人にこれ以上心配はかけたくありません。黙っていてくださるのなら、なんでも致します」

頭を下げた琴理は、足元を見たまま視線をうろつかせた。

自分に出来ることなど、そうないだろうけれど……。

「琴理、今後その言葉は取引に絶対使うな」

「え?」

予想外の反応に驚いて顔をあげると、心護が怖い顔で琴理を見ていた。

「え……宮旭日様……?」

「琴理様、その言葉は下心を持った人間には格好のエサです。お気をつけてください。そして若君に言ったことも撤回した方がいいです。早いうちに」

「それは駄目だ。俺はもう聞いたから、聞いてもう」

「ああ……」

公一がため息をもらした。

「若君、犯罪になることは駄目ですよ?」

「お前俺をなんだと思ってる」

「琴理様のこととなるとネジの一本や二本簡単にカッ飛ばすでしょう、あなたは。琴理様、若君に言質(げんち)を取られないように、くれぐれもお気を付けてください」