「……怒ったか?」
こんもりとブランケットを積まれた心護は、ひとことそう言った。
「何をですか?」
琴理がブランケットを手にしたまま首を傾げる。
「……勝手に式を置いていたことだ」
「あ。……まあ驚きましたが……怒ってはいません。怒らせることをしたのはわたしの方ですし」
公一がいる手前どこまで話していいのか悩んだが、それとなく言ってみた。
「琴理……いきなり本心をさらせなんて言わないが、あんなものを頼る理由は教えてもらえないか?」
「―――」
あんなもの。その正体は口にしなかったものの、心護には察しがついているのだろう。
琴理がそっと運転席をうかがうように目をやると、公一は穏やかな声で言った。
「私からご当主やほかの方に話すことはありません。私の主人はご当主ではなく若君だと決めておりますので」
「公一さんとその奥さんは、俺の側だから心配しなくていい。うちでも、二人に何かを隠したりする必要もないから」
「―――」
すっと、琴理は背筋が伸びた。
宮旭日家の跡取りは心護だと公にもされているが、心護には叔父がいる。
父当主の弟だ。
その叔父は、かつては兄を抑えて当主になるだろうとも言われていた人だった。
だが先代当主――心護からしたら祖父が、自身の長男を跡取りに指名し、心護の父が襲名した。
ならばその次の当主は、という話題になった頃、心護が頭角を現してきて、ついには『最強の退鬼師』とまで呼ばれるようになった。
そんな心護が跡取りだと公言されているが、今でも心護の叔父を当主に、と画策している者もゼロとは言い切れないのだ。
そのような宮旭日家の中で、心護は若月夫妻には信頼を置いているようだ。
嫁ぐ先だからとか、その家の人だからとかいう理由ではない。
心護と公一は、『話していい人だ』と、琴理は思うようになっていた。
膝の上で握ったこぶしに視線を落とす。
「……妹は、生まれつき身体が弱かったのです。ですがそれは、ある人物のせいでした」
「お名前は愛理様ですね。聡明な方ながら、あまり学校にも行けていないとうかがっていますが」
「はい……。あの、ここから先は本当に内密にお願いします。家の中でも、私と両親と、父の側近の方しか知らない話なのです」