そして二人の人間からこんなにも愛されている琴理を、すごい御方だと改めて思った。

……琴理と接している中で涙子は、琴理は著しく自己評価が低いと感じていた。

勉強は群を抜くほどではないが教えれば理解しようと頑張るし、学校の成績も悪いわけではない。

琴理の控えめな性格ゆえかと思っていたが、まず心護とのすれ違いが大きな原因だと思った。

幼い頃に決まった許嫁がいて、嫁入りするために勉強漬けの毎日なのに、当の許嫁には無視されることばかり……これでは、嫌われている、自分が至らないからだと、マイナス方面に捉えても仕方ないだろう。

これについては琴理を宮旭日の離れに招いたあと、使用人たちで状況整理をしたので間違いはないはずだ。

もともと、心護の琴理への態度は心護の離れの使用人だけでなく、母屋の当主夫妻や執事長たちにも把握され、懸案事項のひとつになっていた。

琴理にお守りを渡したときも、涙子からしたら(よく頑張りましたね……! でももっと説明してください。押し付けていなくならないでください)と思ったものだ。

まあ、弟のように育ってきた心護の、他人から見れば少しばかりの成長に、にやにやするのは抑えられなかったが。

――琴理の母に呪いの毒が放たれ、愛理がそれを受けてしまったことは公一と詩にしか知らされていないため、琴理の自己評価をどん底まで下げた理由を涙子は知らなかった。

琴理も、両親が隠し通している話を、涙子といえど簡単には話せなかった。

「風子ちゃん、愛理に飲み物をお願いできる?」

「ただ今お持ちします」

「私も参ります――」

「涙子さんはここで。愛理に変事あったとき、誰かがいてくれた方がいいので」

風子に頼んだ琴理は、続こうとした涙子へ向けて微笑みを見せる。

「承知致しました」

涙子はそう答えて、頭を下げた。

そして顔をあげてから、

「失礼ですが、琴理様は風子さんのことを『ちゃん』付けでお呼びなのですか?」