愛理の部屋まで来ると、愛理付きである風子(ふうこ)がドアを開けた。

ベッドにおろされた愛理は、廊下に待機しようとしていた涙子に向かって笑みを見せた。

笑顔だが、愛理のあまりにも白い顔色が、『病弱』という評判を肯定していた。

「涙子さん、ですよね。姉様のこと、ありがとうございます」

「お初にお目にかかります。宮旭日使用人の鳴上涙子と申します」

「花園愛理です。シスコンです」

「さ、さようでございますか……」

愛理の自己紹介になんと反応するのがいいのか、使用人としてどの立場で返事すればいいのかわからな過ぎて、涙子はそう答えるのがやっとだった。

涙子の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいただろう。

「そしてわたしの推しです」

「さ、さようでございますか……」

何を張り合ってか琴理まで胸を張って乗っかってきたので、涙子は更に戸惑った。

涙子は話を変えることにする。

「失礼ながら琴理様、愛理様を抱きかかえられるのはよくあることなのですか……?」

「はい。愛理はよく倒れるので、大体そばにいるわたしが抱えて部屋まで運んだり、医師のところへ連れて行ったりと……」

よくあることなので心配しないでください、という意味を読み取り、涙子は頭を下げた。

「承知致しました」

廊下にいたままの涙子に向かって愛理が声をかけた。

「涙子さん、中へどうぞ」

「それは――」

「姉様の、宮旭日様のお宅でのことをお聞きしたいです」

愛理がぎらぎらと輝く目で涙子に言うので、涙子は(病弱とは……)と思った。

だが、部屋に入り愛理に乞われるままに琴理のことを話すと、琴理の話をしているときはぎらぎらと生命力に長けた様子なのに、話が落ち着くと途端に青白い顔になってしまうので、(愛理様にとって琴理様は命の源レベルなのですね……)と理解した。

つまり病弱なのが愛理のデフォルトで、琴理に関すことのみぎらぎらしだすのだ。

……心護にどう伝えるか考えてしまう。

琴理溺愛の長い心護だから、実妹と張り合ってしまいそうで……。