琴理が入った山は大きな公園の一部なので、手入れもされていて下草のない山を突き進み、道路に出た。ところで、壮年の男性が蒼白な顔でそう言ってきた。
四十歳を過ぎたあたりだろうか。傍らには乗用車があり、男性は普段着だ。
一般的な乗用車なので、心護が私的な目的でここへ来たことがわかる。
「ああ。夜中に起こして悪かった。琴理はこのままうちへ連れて行く。花園へは、一晩預かると連絡をしておいてくれ」
「承知しました。琴理様は手当など必要ではないですか?」
男性に問われ、琴理は首を傾げた。
何故自分がここにいることが前提のように話しているのだろう。
だが、先に質問に答えねば。
「は、はい……怪我はしておりません……」
琴理が答えると、男性はほっと肩から力を抜いた。
「車にお乗りください。ブランケットもありますので、お体を冷やさないようになさってください」
「は、はい……」
心護に導かれて、車に乗り込む。
何故ここまで自分に畏(かしこ)まるのだろう――そう思ったが、琴理は心護の許嫁、宮旭日家の人間にとっては捨て置けない存在なのだろう。勝手に決まっていた婚約とはいえ。
琴理を車の後部座席に押し込んだ心護は、琴理が「暑い」と言いたくなるほどブランケットでぐるぐる巻きにしてきた。
桜の時期は終わったとはいえ、まだ四月。夜は肌寒い。
が、限度というものがある。
「み、宮旭日様、少し待っていただけますか」
「何をだ?」
「ちょっと苦しいのです。こうも巻き寿司状態にされては……」
「あ。……悪い」
やりすぎたことに気づいた心護は、はっと手を止めた。
やっと巻き寿司から抜け出した琴理は、膝の上に一枚だけ借りて、心護に頭を下げた。
「かようなご足労をおかけしてしまい、大変申し訳ありません。このような時間に車を出させてしまったことも、申し訳ありませんでした」
心護と、運転をしている男性にも向けて頭を下げた。
「それと……もし誤解させてしまっていたらと思いお伝えするのですが、先ほどのあ――あの、言われたことに関しましては、わたしの妹のことなのです」
「……妹?」
心護は首を傾げる。