俺は、小学校の時から自分に自信が無かった。クラスの男子や女子に“ブサイク、死ね、お前なんか生きる価値がない”と言われ続けてきた。だけど、その度に助けてくれる女子がいた。

「ちょっと、その言い方ないでしょ。言った側は忘れるけど、言われた側は一生傷つくんだよ」

 いつもは優しくて大人しい星乃が、俺のために勇気を出して怒ってくれたから、本当に驚いた。その日から俺は幼馴染に恋をした。

 中学生になると、環境は変わった。散々俺を虐めてきたクラスメイトの奴らも、もう何も言わなくなった。中学校は思いきり青春を楽しもう、と思っていた。

 そんな時。今度は星乃が虐められた。星乃は何も悪くないのに、一人の女子のせいで星乃が悪い、となった。男子から“早く死ねよ”と言われているのを見て、俺は我慢ができなかった。

「その言い方はねーだろ。言った側は忘れるけど、言われた側は一生傷つくんだよ」

「えっ、星那、それって……」

「……ん、星乃が俺に言ってくれた大切な言葉」

 この醜くて残酷な人間がいる世界が消えてほしい。この大嫌いな町が無くなってほしい。この大好きな人が救われてほしい。それが俺の願いだった。

 そして高校生になり、この事件が起きた。

――流星群が落ち、町が燃え尽き、俺達は一瞬で死を迎えた。

 そう思っていたが、ふと気がつくと流星群が落ちる前に戻っていた。タイムスリップ、というものだろう。

 最初は信じられなかった。これは夢なのか、とも思った。けれどやっぱりクラスメイトの言動や行動が一緒なのだ。

「星乃、次移動教室だって。一緒に行こ」

「あ、星那……」

 と、俺は星乃に声を掛けた。すると星乃だけは様子がおかしかった。

「大丈夫? 星乃、熱でもあるんじゃない?」

「う、ううん。星那……星那だ」

 星乃は、今にも泣き崩れそうな顔をしていた。……もしかして、と思った。あの言い伝えは本当で、星乃は星に願って時を戻したのか、と。

「星乃、本当に大丈夫? ……俺はここにいるから」

 そう言うと、星乃は驚きながらも安心した表情を見せた。やっぱり、星乃は時を戻したのか……。

「……あのさ、星那」

「ん?」

「星那は、この町に星が落ちて、燃え尽きるって分かってたらどういう対策する?」

 ――俺は適当に答えた。本当は星に願う、とでも言おうと思ったけれど、きっと星乃はびっくりしちゃう。だから俺一人で何か対策を考えようと思った。

 けれどやっぱり一日だけじゃ、何も思いつかなかった。星乃が時を戻したように、俺も願えば時を戻せるのではないか、と考えた。

 流星群が落ちる直前で、こう願った。“もう一度だけ、チャンスをください”と。

 また気がつくと、あの日の学校へ戻っていた。やはりあの言い伝えは本当だったのか――。

「……っ」

 直後、頭に重りが乗ったような痛みが走った。俺は痛みが強すぎてその場で座り込んでしまった。

「……星乃、ちょっと保健室連れてって」

「う、うん、分かった」

 星乃に頼み、保健室に連れて行ってもらった。……星乃にこの願いのことを言うチャンスだと思った。

「……あのさ、星乃。一回目、時が戻ったのって、星乃が流星群に願ったんだよね?」

 そして俺は、流星群に願ったことを話した。俺が今回時を戻してほしいと願ったこと、今回が最後のチャンスだと思ったこと、全て。すると星乃は、唇が震えて悲しそうな表情をした。――そんな顔、しないでほしいのに。

「俺にいい考えがある。一か八か、試すしかない」

 動揺している星乃をなだめるように俺は言った。星乃に、二人で一緒に“この町を救いたい”と願おう、と言った。ただ、本当はそれじゃない。

 いい考えというのは、“俺が身代わりになっていいからこの町を救いたい”というものだった。

 きっと星乃はこの町を大嫌いだと言っているけど、本当は好きになりたいのだろう。この町の人々を、そしてこの町を。俺は星乃に返しても返しきれない言葉を貰った。だから今度は俺が、大嫌いな町と大好きな人を救いたい、そう思った。

 そして俺は、流星群が落ちてくる直前に願った。


――お星様、どうか、どうかこの町を
救ってください。

この“星”という名を
背負って。

自分が身代わりになってでも。
この大嫌いな町と大好きな人を救いたい。