「おはよう、星乃ちゃん」

「湯原さんおはようございます」

 星那が消えてから。いや、三度目のタイムスリップをしたときから一週間経った。目の前の湯原家は夫婦二人で過ごしている。星那の存在が、この世から消されてしまった。

「ねえ星乃ちゃん、星乃ちゃんってこの家遊びに来たことあるっけ?」

 と、星那のお母さんから聞かれた。

「えっと……何でですか?」

「なんでか二階の部屋に、星乃ちゃんの写真が一枚飾ってあるのよ。あの部屋誰か使ってたかな……?」

「あはは、怪奇現象ですね」

 ――きっと星那の部屋だろう。私の写真が飾ってあるだなんて知らなかった。星那は本当、私のことを好きだったんだなあと今更思う。

「……行ってきます、星那」

 空にそう呟いて、私は学校へ向かった。やはり、こんな大嫌いな町を好きになろうと思わない。けれど絶対に負けない。

「おはよう、佐山(さやま)さん」

「えっ……おはよ、如月さん」

 私は隣の席の女子へ挨拶してみた。……最初は少しずつ慣れていこうと思ったから。

「如月さんって、なんか前と雰囲気変わったよね。話しかけやすくなった」

「……そうかな、ありがとう」

 きっとそれは、星那のお陰だ。星那が、流星群が私に希望を与えてくれたから。

「ねえねえ、星乃ちゃんって呼んでもいい?」

「え、佐山さんずるーい。私も私も」

「星乃ちゃん、今日一緒にお昼食べない?」

 私は愕然とした。……友達って、こんなに暖かったっけ。

「……うん、いいよ」

「やったあ、決まりねっ」

「星乃ちゃん本当可愛いよねー、羨ましい」

 ……女子同士が褒め合う意味が分かった気がした。言われた側は、本当に嬉しい。とてつもなく。

「ありがとう、可愛いって言われたことないから嬉しいな」

「え、そうなの!?」

「星乃ちゃんって、自分より周りの人が大切って感じだよね」

「分かる分かる。誰にでも優しいし」

 ……あ、星那が言っていたことと同じ。

「そんな……。みんなだって、優しいでしょ」

「あはは、星乃ちゃんってやっぱり自分より周りの人の方が大切って思ってるよね。そういう所が優しいんだよ」

「そうそう、自分に自信持って!」

 クラスの女子達が私の方を見て言ってくれた。私は一粒の涙が頬を伝った。

「星乃ちゃん!?」

「ごめん、何か気に障ること言っちゃった……?」

「ほらあんた、そういう所あるんだから」

「……違うの」

 私は俯きながら、精一杯の言葉で答えた。

「嬉しいの……!」

――星那、私全員が残酷で醜い人間だと思ってた。けどそうじゃないんだね。こんなにも優しくて暖かい人もいる。

 一歩ずつだけど、この大嫌いな町を大好きになれたらいいな、と思う。だから見守っていて、星那。

 お星様、この町を救ってくれて、“如月星乃”という人物を幸せにしてくれて、ありがとう。