私は気がつくと、暗い闇の中、一人で立ち尽くしていた。

「ここ、どこ……?」

 確か私は自分のベッドで寝ていたはずだ。暗い闇の中に、惑星のおもちゃみたいな物が転がっている。ここは、夢……?

「星乃っ!!」

 ハッとして前を見ると、星那が私の元へ走ってきていた。

「星乃……やっと見つけた」

 私の頭の中は混乱していた。……もしかして、あの町を救えなかったのだろうか。やっぱり、願いが叶うのは一度きりだったのだろうか――。

「……星那、ここどこなの? やっぱり私達、救えなかったの……?」

「違う、違うよ星乃。あの町は救えたんだ。もちろんクラスメイトも、家族も――星乃も」

 私は心の底からホッとした。それと同時に、ここはどこなのか、という疑問が浮かび上がった。

「さっき家に居たんだけど、お母さん星那のこと忘れてたの。ねえ、どういうこと……?」

 私が早口で質問すると、星那は唇を噛み、どこか切なげな表情をした。一度目のタイムスリップしたときと、同じ顔してる――。

「……俺は死んだ」

――私は、息を呑んだ。言葉が出てこなかった。

「言い伝えで、願いは叶うけど代償が伴うって書いてあっただろ?」

 私は頷くことすらできなかった。

「このまま普通に願うと、俺も星乃も死んじまうんじゃないかって思って。だから、あの時“俺が身代わりになってもいいからこの町を救って”と願ったんだ」

「……っ、どうして言ってくれなかったの」

 悔しくて、切なくて、悲しくて。星那と話せることが最後なんだと思うと、私は怒りが収まらなかった。

「……俺は星乃が好きだ」

――頭の中が真っ白になった。

「星乃に死んでほしくなかった。自分より周りの人のことを考えていて、誰にでも優しい星乃。生きていてほしかった」

「私だって、星那が……っ」

 私は話し終わる前に、星那の腕の中にいた。

「……言うな、次の言葉は。分かってるから……っ」

 堪えていた涙が星那の服にポタポタと流れた。

「……だから、代償は俺が伴った。俺達の絆があったお陰で、あの町を救えたんだ。本当に、良かった」

「そうだね。……涙、止まらないよ」

「……うん」

 私は星那の腕の中でひたすら泣いていた。ただただ二人で涙を流していた。

「そろそろ時間だ。呼び出しちゃってごめん」

「えっ、星那が私のことをここに呼んだの?」

「……星乃に会いたい、って思っただけ」

 地獄のような暗い闇の中。私もあっちの世界へ帰ったら、こんな人生が待っているんだろう。

「……会えて良かった、大好き星乃。負けないで、惨めな人間に」

「……うん、負けないよ。あんな大嫌いな町に負けてたまるもんか。――私もだよ、星那」

 私は星那の照れた笑顔を見て、深い眠りについた。