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目を覚ました時、私は病室のベッドの上にいた。

窓から差し込む日差しが眩しくて、

「っ……」


声にならない声が出る。

その瞬間、左側で何かが動き


「……沙苗……?」


と、聞き慣れた声が聞こえた。

ゆっくりと視線だけをそちらに向けると、


「沙苗? ……沙苗!? 聞こえるか?」


なぜか、そこには私の手を握る晶の姿があった。


「あ……きら……? なん、で……」

「お前……車の中で意識失ってから丸一日意識が戻らなかったんだぞ。待ってろ、今ナースコール押すから……あと、おばさんにも連絡するから……」


晶の目は真っ赤に腫れていて、鼻水を啜ったかと思うとナースコールを押してくれた。

すぐにやってきた主治医の先生に


「無理しすぎだ」


と呆れられてしまう始末。

晶からの連絡で買い物に行っていたお母さんが戻ってきて、お父さんも仕事を切り上げてすぐに駆けつけてくれた。

みんな泣いていて、私は逆に笑ってしまって少し怒られた。

お父さんとお母さんが先生とお話ししている間、私の隣には変わらず晶がいてくれている。


「晶……全部聞いた?」

「……あぁ、聞いた」

「ごめんね晶。呆れたでしょ」

「あぁ。心底呆れたよ」


私の手を握る晶は、何度も頷いた。


「お前がそんな苦しみを一人で抱えていたことに気付きもしなかった。そんな自分に呆れた」

「それは違うよ。第一高校に入ってから全然会ってなかったんだし、気付かなくて当たり前なんだよ」


気付くわけがないんだ。晶は何も悪く無いんだ。


「確かに校内で会うことなんてほとんど無かったけど、俺はずっとお前と話したかったよ」

「え?」

「中学までは毎日のように顔合わせてたから、それが当たり前みたいになってて。この三年間、なんかつまんなかった。沙苗が近くにいないと、面白くなかったんだ」

「……うん」

「だから意味も無く美術コースの階に行ってみたこともあったし、作品が展示してあれば真っ先にお前の名前を探した。スマホがあるんだから連絡すればよかったんだけど……なんでだろうな。恥ずかしかったんだ」


全然知らなかった。

私も、プロチームからのオファーがどうとか関係なく、本当はただ晶に会いたかった。

意味も無く体育コースの階に行ってみようかって何度も考えた。

晶が言った通りスマホだってあるのに、何故か偶然を装った上で会いたくて。

晶に会いに来たと思われるのは恥ずかしくて。でも、会いたい。

まさか、全く同じように考えていただなんて思わなかった。


「だから卒業式の日、誘ってくれて嬉しかった。会いにきてくれて嬉しかったんだ。でもそれで浮かれて、目の前のことを見逃してた。いくら三年間疎遠だったとしても、この一ヶ月は誰よりお前のそばにいた。ずっと顔合わせて、一緒に話して、メシ食って。また馬鹿みたいな話して。……それなのに、本当はお前が具合悪そうにしてたことくらいとっくの前から気付いてたのに! ……気付いていながら何もできなかった自分自身に、呆れてる」

「晶……」

「なんで俺に言わなかったんだ、って。なんで俺の絵なんて描いてんだよって。そんなのこんな身体で描く必要無かっただろって……治療が先だろうって……そう思っちまう自分にイライラする」


そんなことを言わせたかったわけじゃない。

晶が悲観することなんて何もないのに。

私が勝手に隠して、勝手にわがままを言って。それに晶を巻き込んだ。それだけだ。

バレた時に晶がどんな気持ちになるか、そこまで考えが及んでいなかった。

最後にいい思い出ができた、なんて自分に酔っていた私が悪いのに。