大家さんに押し切られた俺は結局「はぁ…」一人で試練を再開する事になったのだった。
「大家さんてあんな強引なとこもあったんだな…いや、まあ、ある程度知ってたけども」
という訳で俺は今、チュートリアルダンジョンに再び訪れている。
ああそれと、試練で得られる《器礎魔力》の詳細はこうなっている。
=========器礎魔力詳細===========
●『攻』魔力
肉体に馴染めば筋力を超常的に強化するのだが、それは副次効果でしかない。
主となるのは武器や素手など、『直接的な攻撃に破壊の力をどれだけ宿すか』ステータスの数値はそれを表している。
その性質上、この魔力は術者の身体から離れてしまうとただの魔力に成り下り、破壊の力も消えてしまう。
●『防』魔力
肉体に馴染めば耐久性を超常的に強化するのだが、それは副次効果でしかない。
主となるのは直接的な攻撃つまりは『『攻』魔力を宿した攻撃にどれだけ耐えられるか』、ステータスの数値はそれを表している。
その性質上、これも術者の身体から離れてしまうとただの魔力に成り下がり、防護の力も消えてしまう。
●『知』魔力
肉体に馴染めば脳力を超常的に強化するのだが、それは副次効果でしかない。
主となるのは『この世界に追加された魔力システムにアクセスする力(※攻撃魔法やデバフ魔法や特殊魔法を発動する際の出力)がどれだけあるか』ステータスの数値はそれを表している。
ちなみに脳力が強化される以上、記憶力がよくなったり演算力が強化されたりするが、発想力や表現力にまで影響はないようだ。つまり本当の意味で賢くなる訳ではない。
●『精』魔力
肉体に馴染めば魂を超常的に強化するらしいが、それは副次効果でしかない。
主となるのは『己の魂に追加された魔力システムにアクセスする力(※回復魔法やバフ魔法や特殊魔法を発動する際の出力)がどれだけあるか』
そして『『知』魔力を宿した攻撃(※攻撃魔法やデバフや特殊魔法)に耐性がどれだけあるか』ステータスの数値はそれらを表している。
ちなみに魂が強化される以上、精神力が強くなったり忌避感に影響したりするが、回帰した今にして思えば、精神的な耐性に関して言うと経験からくる影響の方が強いような気がする。
●『速』魔力
大雑把に言うが、全ての動きの素早さに関わる魔力だ。
でも今言ったとおり、全ての動きの速さに魔力補正がかかるので注意が必要だ。やたら早口になったり、落ち着きがないように見られたりするからな。
●『技』魔力
大雑把に言うが、全ての器用さに関わる魔力だ。
ただ、本質的に要領が良くなる訳ではないようだ。あくまでも魔力に由来した技。すなわちスキル。これを習得したり繰り出す際のスムーズさに補正がかかるようだ。
特に、魔力を用いた制作や生産をする際は相当な補正がかかる。職人系ジョブにつくなら数値的に高くありたい魔力ナンバーワンだな。
総合的に言うと、すべての魔力においてその出力調整…つまりは効率化したり最適化したりする上で重要な魔力となる。
●『運』魔力
運が良くなる、のか?どのように魔力補正が掛かっているのかは正直なところ不明だな。『因果』がうんたら言ってたヤツもいたが、それだって確証のない憶測に過ぎなかった。
ともかく、クリティカル率やドロップ率、罠解除やデバフ回避など、様々な状況に絡んでいる、かも?しれない。
つまりは、一番役立たずな、あるいは一番汎用性のある魔力、なのかもしれないという…いや結局どっちなんだって話なんだけども。
なのでここからが重要かつ確かな事実なんだが、上昇させたいならこのチュートリアルダンジョンでしか機会はない。
何故ならこれは『レベルアップで上昇しない魔力』だからだ。
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これら七つの《器礎魔力》の全てを得るまでがチュートリアル、システムで言うところの『試練』となる。
砕いて言えばゲームキャラの初期設定を決めるようなもんか。
だけど試練は試練だ。ゲームのようなシステムなのにボタンを押してポンポンとは決められない。
面倒だが、七つの試練をコンプリートして初めて、ステータスの原型が完成する仕様となっている。
そうやって全ての器礎魔力を身に宿し、循環させて統合し、『俺という個性を由来とする魔力体系』を形成なければ、システムから『魔力の器』として認められないらしい。
だからの『器礎魔力』なんだろう。
器にして礎。魔力を注ぐための器を形成するための魔力……といった感じか。
そしてこれら七つの器礎魔力を揃えて初期ステータスを完成させるまでは『ジョブ』も得られない。
それだとレベル…正式に言うと『ジョブレベル』と呼ばるものを上げられない。上げられないならここで得られる『成長補正』も意味がなくなる。
なのでこのチュートリアルはなるべく早く済ませなきゃならないように思えるが…
ここは、ものすっごーーーーく慎重にやらなくてはならない。
「思い通りのステータスを得たいなら、試練を受ける順番も大事になってくんだよな…」
ここでおさらいするが。それぞれの試練で《器礎魔力》が一つずつ得られる事は先に言った。
そこで好成績を修めるとそれぞれの魔力を初期値から高い水準で得られ、今後のレベルアップ時の成長補正も高くなり、その時にはスキルなどの特典が得られる事も。
でも、それこそが、このチュートリアルダンジョンが用意した落とし穴だ。
先の『防』魔力の試練で俺があえて舐めプしたのは、その落とし穴を警戒したからだった。何故ならこれら七つの試練は、いやらしく関係しあっているからだ。それは──
『張り切って好成績を修めてしまうと逆に、他の試練の成績が下がってしまう』…という落とし穴。
「…まったく…」
何故こんな仕様なのか。個人の突出を許さず、過度な無双をさせないため?
それとも個々の個性がなるべく反映するための配慮だったり?
はたまた、ゲームのようなシステムをなるべく忠実に再現するためか?だって魔法しか打たない戦士とか、殴るしかしない魔法使いなんて情緒ないしな。
まあとにかく。
その理由はわからないが、この相互関係によって成績が下がる試練は基本、二つも設定されており、その忌々しい内容については、以下のようになっている。
●『攻』魔力の試練の場合
ここで好成績を修めると『知』魔力と『精』魔力、両方の試練の成績が下がってしまう。
●『防』魔力の試練の場合
ここで好成績を修めると『知』魔力と『速』魔力、両方の試練の成績が下がってしまう。
●『知』魔力の試練の場合
ここで好成績を修めると『攻』魔力と『防』魔力、両方の試練の成績が下がってしまう。
●『精』魔力の試練の場合
ここで好成績を修めると『速』魔力と『運』魔力、両方の試練の成績が下がってしまう。
●『速』魔力の試練の場合
ここで好成績を修めると『攻』魔力と『精』魔力、両方の試練の成績が下がってしまう。
●『技』魔力の試練の場合
ここで好成績を修めると『防』魔力と『運』魔力、両方の試練の成績が下がってしまう。
●『運』魔力の試練の場合
これだけちょっと違う。
ここで好成績を修めて下がるのは『技』魔力の試練成績だけとなる。その代わり通常に比べて倍に下がってしまう。
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そして本当に大事なのは、ここからだ。
それは、これら落とし穴には、逆パターンも存在する、という事だ。
ここで受けられる試練はどれも簡単、もしくは単純なものしか用意されていない。だからこそ、突出して良い成績が修めにくく、逆に言えば、突出して悪い成績も修めにくい。良く言えば誰でも頑張れる試練となっている。それでも年齢や性別、健康上の理由等でこのイージーな試練さえ難しいとしてしまう人々だっているからな。
今から説明する逆パターンは、そういった人々への配慮だったのかもしれない。どうしても発生してしまう能力的格差をなるべく廃してかつ、素の実力や素養をなるべく反映するために用意された…のかもしれない。
今から俺は、それを逆に利用するつもりだ。つまり、普通ならあり得ないほどの悪い成績をおさめる、つまりは酷い手抜きをするつもりだ。
実際に『防』魔力の試練ではそうしていたのだが…さて、ここで思い出して欲しい。あの時の俺はどうなったか。そして想像してみて欲しい。この試練で極端に悪い成績を修めると、どうなるのか。
それがさっき言った逆パターンだ。『上記の現象が、全て逆転する』というパターン。
つまりは好成績を修めた場合だと他の試練二種の成績が減点されていたのが、悪い成績を修めると逆転して、他の試練の成績二種に加点されるようになるのだ。しかも。
加点されたそれらの能力値は、『先取り』出来てしまう。その詳細は以下のようになっている。
●『攻』魔力の試練の場合
ここで悪い成績を修めると『知』魔力と『精』魔力、両方の試練の成績が加点され、しかもそれらの魔力を『先取り』出来る。
●『防』魔力の試練の場合
ここで悪い成績を修めると『知』魔力と『速』魔力、両方の試練の成績が加点され、しかもそれらの魔力を『先取り』出来る。
さっきの俺はこれを利用した。
●『知』魔力の試練の場合
ここで悪い成績を修めると『攻』魔力と『防』魔力、両方の試練の成績が加点され、しかもそれらの魔力を『先取り』出来る。
●『精』魔力の試練の場合
ここで悪い成績を修めると『速』魔力と『運』魔力、両方の試練の成績が加点され、しかもそれらの魔力を『先取り』出来る。
●『速』魔力の試練の場合
ここで悪い成績を修めると『攻』魔力と『精』魔力、両方の試練の成績が加点され、しかもそれらの魔力を『先取り』出来る。
●『技』魔力の試練の場合
ここで悪い成績を修めると『技』魔力と『運』魔力、両方の試練の成績が加点され、しかもそれらの魔力を『先取り』出来る。
…これは、救済措置のつもりなのか…いや、実際にそうなのだろう。謎の声が言ってた『次の試練での奮闘に期待します』って言葉には、そういうニュアンスも含まれて感じた。
(『救済措置を適用してやるから、次こそ頑張れ』的な?だけど…)
ちゃんと、考えたのか?これがどれほどのアドバンテージとなるか。つまりこの裏技を使い、先取りした魔力が反映された状態でそれに対応した試練を受ければどうなるか。
俺もこれから試すので、どれほどの好成績を得られるか見当もつかない。この試練を考えたやつはそれを考えなかったのだろうか?
「いや、考えてない訳ない。」
多分だが、試してるんだろう。この試練はただ優秀であるかどうかを試すだけじゃなく、この裏技に気付けるやつがいるかどうかも試してるんだきっと。
「つまりは、遊んでやがるんだ」
……本当に意地が悪い…そして趣味が悪い…さらに言えば気味が悪い。
ともかく。
以上が魔力を得るための試練、チュートリアルダンジョンのカラクリの全てだ。
そう、『防』魔力の試練で俺が得た『知』魔力と『速』魔力はこの裏技を利用して先取りしたものだった。
まあ、その代償として『防』魔力の試練はあれで終了…つまり俺は今後、紙装甲を悩みの種として戦い抜かねばならなくなった。
…ん?悔いはないよ?この程度の弱点なら補填する方法はまだまだあるしな…それに、
「その知識チートこそが、俺の武器なんだからな」
それに、もしもの話…『防』魔力の試練を舐めプせずに真面目に取り組んでたらどうなってた?
あの試練に最後まで付き合えば結構な時間を要したし、『知』魔力と『速』魔力の試練の成績は減点されていたはず。
それを挽回するためには『知』魔力と『速』魔力の試練に、真面目に取り組む必要に迫られたはずだし、そこに時間かけたらそれこそ、大家さんを助けられるはずもなかった。
しかも…そんな大きすぎる犠牲を払って得られた魔力値は平凡止まりで、その成長補正も平凡止まりときたもんだ。俺にとっていいことなんて一つもなかった。
実際、前回『防』魔力の成長補正をSランクまで上げてしまった俺の『知』魔力と『速』魔力は、それぞれの試練をクリアした後の成長補正がDランク止まり。
その結果大家さんを助けられなかった俺は意欲を失くし、攻略にも本腰を入れられなくなった。
…いや、それが言い訳に過ぎない事は分かってる。だが実際に取りこぼした『称号』や『アイテム』は数知れない。
こうして中途半端な盾役…ゲーム用語で『タンク』と呼ばれる役割しか担えなくなっていった。
(そこをあいつらにつけこまれた。そして思い知らされた…コミュ障のタンクには最悪の不遇しかないってことを…)
「ほんと、アホ」
いや俺じゃなく。
いや俺もだけど。
主にこのシステムがね。
ほんと悪意を感じるよ。
「…こんなの、初見で分かる訳ないやん。」
でも?
そうだ。
今の俺にとっては初見ではない。
全てをやり直せる。
そうだ。
実際にやり直せた。
大家さんを救えた。
だから。
「今度こそ…」
見返してやるのだ。
全てを。
『俺なりの最強ビルド』をひっさげて。
「という訳で……よし!次は、『精』魔力の試練だ!」
ここはある意味、一番難しい試練かもしれない。
まず、先取りした能力値『防』魔力、『知』魔力、『速』魔力の補正を受けられない。
そして頑張り過ぎてよい成績を上げすぎると『速』魔力と『運』魔力の試練成績が減点される。
減点されてしまうと裏技で折角得た『速』魔力の値も次いでとばかり下がってしまう。
そうなると今後の試練が調整しにくくなってしまう。
かといって『防』魔力の試練の時みたく舐めプし過ぎてはいけない。何故なら『精』魔力も割りと重要だからだ。
つまりは、塩梅が難しい。
だから先ずこれを選んだ。
てな事を頭の中でもう一度復習がてら思いながら、俺は『精』魔力の試練…と記された扉をくぐった。
するとやはりだ。ここには何も置かれていない。きっと謎の声がアナウンスするだけだろう…ほら。
『これからあなたがトラウマとする記憶を段階を追って再現します。受け止めなさい。さすれば不動の心を得られるでしょう』
「…わかった。」
『それでは、精神を落ち着けて──』とか言いながら、いきなりトラウマを再現するんだから意地が悪い。
先ずは…ゴキブリか。前世で再現されたのと同じだ。でも気色の悪いことこの上ないモンスター共に鍛えられた俺には今更だな。何てことない。
次は…ん、ああ。初恋の女の子に告白メールを公表された記憶か…ふ、ふふ、ふ。これもまあ…前世で再現されたのと同じだし?…ふふ、ふ、いや甘酸っぱいねぇー…いや酸味成分きつめだけどね!
次は…ゴブリン、もとい人型モンスターを初めて殺した記憶だな。前世でこれは再現されなかった。でもこれ…確かにトラウマだけど。今さら見せられてもな。だって、前世の俺がこいつらをどんだけ倒したと思ってるんだ?次だ次。
次は…ああ、初めて人を殺した記憶…でもこれは…やらなきゃやられてたし。もう心の整理はついてる。つまりはこれもあれだな。前世の俺がどんだけ……いや。やめとこう。心が揺れてしまいそうだ。
(つか、ここらが塩梅か。)
次のトラウマが再現された瞬間。
「降参だ。」
俺はストップをかけた。え?最後ののトラウマ再現は何だったかって?胸糞なだけだ。聞かない方がいい。
『え…あの…まだ余裕ありそうでしたが。本当にここでやめるのですか?』
「だから降参だって。」
『…う……分かりました。』
よし。これで『精』魔力の試練はクリアした。今ので俺のステータスはこうなった。
=========ステータス=========
名前 平均次
防(G)10
知(D)25
精(D)25
速(D)25
《スキル》
【暗算】【機械操作】【語学力】
《称号》
『英断者』『最速者』
=========================
得られた『精』魔力は初期値が25、成長補正がDとなった。
この成長補正のランクにはAからGまである。もちろんAが高く、Gが低いという感じに。
ん?ああ、そのAより上にSってのが、あるにはある。
でも、これは取れることは取れるけど、試練を満遍なく頑張ってしまうと他の試練結果に巻き込まれて結局、下がってしまい…つまりは最終的には残らないのが殆んどだ。
その点、前世の俺は運が良かった。…にしても、ホント意地の悪い仕様だよな。
そして今回俺が取得した『精』魔力の成長補正ランクはD、中間だ。
良い成績でも悪い成績でもない。
だからか例のデメリットは発生しない。
その代わり例の裏技も適用されない。
プラマイゼロってとこだな。
だから下がるか上がるかするはずだった『速』魔力はそのまま。
『運』魔力の内部成績もステータスから読み取れはしないが据え置きだろう。
勿論、先取りもなしだ。
前世の俺が『防』魔力でSを残せたのは、こんな感じで『知』魔力と『技』魔力の試練で平凡な結果しか出せなかったからだな。
……え?
いや、『俺なりの最強ビルド』とか言ったよ?確かにこれは、『あの意気込みはなんだったの?』って展開だよな、でもな!
すげー地味な展開かもしんないけどこれはこれで最高の結果だからな?そしてまあまあの山場だったんだからなっ!?
そ…そうだよ。
俺は、それを越えたんだ。
(ここからは、裏技使いまくってやるっ)
見てろ!