ピリつく空気。幼い頃はこんな雰囲気になることなかったが、最近は多い。

「ねえ岳、このままじゃ桜散っちゃうよ?」
「は?」
「お花見しよーよ。外に出て、桜見よ?」

 そう言うと、おもむろに岳が動いた。腿の上の私の両手に、乗せられる彼の手。

「俺、今年の桜だけは好きになれねえ」
「え?」
「なんであいつ等勝手に散ってんの?報われない俺への憐れみ?まじで嫌い」

 私からOKを貰えないことを報われないと言われても困るし、そして理不尽な八つ当たりは桜だって困ると思った。

「いいから外行こ」
「行かない」
「明日こそ学校行くの」
「やだ」

 やっぱり緑川岳という男は素直じゃないし我儘だ。そう今日も痛感して、私はその場を後にした。自宅までの十三歩は、地団駄を踏んだから二十歩に。