「こら、がっくちゃんっ」

 放課後。岳の好物の飴を購入し、私は彼の部屋へと突入。

「岳が好きな飴十袋も買ってきてあげたよっ。これで元気出たね?明日は学校行くこと」

 朝と変わらぬスウェット姿のままに、岳は冷たい目。

「いらね」
「なんでよ、岳の好物なのに。てかなんか少し痩せた?」

 半袖から覗く、白くて細い腕。岳は元々華奢な方だが、今日は一段と細く見えた。

 ハンガーストライキ

 そんなワードが一瞬頭を()ぎるが、岳の面前で一袋ぶらぶら揺蕩(たゆた)わせてみると、彼はそれを奪い一粒食べた。

「じゃあ俺と付き合えよ」

 ベッドから雪崩(なだれ)のように身を滑らせ床へと尻をつけた岳を見て、私もゆっくり腰を下ろす。

「すずは俺が守るから」

 丸くて大きい岳の瞳が、上目で私を捉えてくる。寸刻でも油断すれば吸い込まれると分かっているから、私は視線を逸らせた。

「つ、付き合わないってばっ」

 強い口調にならぬよう意識したけれど、言い方は素っ気ない。

「もう何回も説明したじゃん。岳は弟か空気みたいだって」

 そこまで言って岳を見る。彼はガリッと口内のものを潰していた。

「こっちだって何度も言ってんじゃねえか。俺を好きになれって。じゃないと学校行かねえぞ」

 その言葉で、私は声を張り上げた。

「今更無理に決まってんじゃんっ!もう何年幼馴染やってると思ってんのっ!」
「十年」
「ほら、人生のほとんどを幼馴染やってんだよ!?だから今更岳に対してなんも思えないよ!」
「ふぅん……」

 途端に流れる、気不味い雰囲気。絡む視線から逃げたくなる。何故なら岳は──

「あーあっ。まじですず、うぜえっ」

 ほら、怒った。