緑川岳。私よりひとつ歳下の中学二年生。
 冒頭で説明した通り、彼は少しおバカなところもあるが、友達も多く良い人だ。けれど今回の籠城(ろうじょう)に関してだけ言えば、おかしいの一言に尽きる。私を恋人にしたいが為に、不登校になるなんて。

「バカじゃないの、あいつ……」

 彼が最後に私へ告白したのは、桜が咲き始めた頃。その花の見頃はとうに過ぎ、若葉を纏い出している。

「桜が完全に散るまでには岳のこと出さなきゃなあ……」

 岳が家へと立て籠ってから早二週間。未だイエスを口にしない私に、不登校という(やいば)は翳し続けられる。