着々と死に近付いている気がして嫌いだった桜の花。だけどもう今は違う。桜舞う木漏れ日を行くすずのことを見るのは好きだから。

「いち、にい、さーんっ」

 家から一歩出たところからカウントアップが始まり、いつも同じ数字で足を止める。

「じゅーさんっ」

 そして、俺の部屋を見上げてこう叫ぶ。

「岳ー、行ってくるねーっ!」

 言い終わればキュッと口元を結んで、桜を涙目で睨むすず。

「ほっんと、すぐ散っちゃうんだから……」

 そして名残惜しそうに、背中を向ける。そんな彼女に、俺も真上の空からこう言うよ。

「すず、愛してるよ。俺はいつも、すずのすぐ側にいるからね」

 十三歩よりも近い距離。俺等はずっと、その距離に。