ぽろんと涙が出て行った。岳は濡れた私の頬に手を添える。

「可哀想だから付き合ってあげる。そんなかたちですずを手に入れたくなかったんだ」

 柔和な表情だった。

「最期に俺の望みを叶えてあげようとか、そんな気持ちですずと付き合えても嬉しくない。俺は、すずの愛が欲しかっただけだから」

 ふっと岳は微笑んで、こう続ける。

「まあでも、最期の最期まですずを振り向かせることはできなかったけどね」

 その瞬間、後悔の波が私を襲った。

「違うの、岳……」

 頬にある岳の手に、自分の手を被せた。

「私も、岳のことが好きなの……」

 私のその言葉に、岳は「え」と眉を寄せる。

「でも怖かったの……岳ともし別れちゃった時に、気不味くなっちゃうのが怖かった……だからこのままがいいって思ってたっ。岳とは一生仲良くいたかったから……」

 だけど。

「岳と逢えなくなって、ものすごく辛かったっ。逢いたいって思ったっ。それなのに、それなのに……」

 岳お願い。嘘だよってそう言ってね。

「もうすぐ死んじゃうの……?」

 頬にある岳の手は、こんなにも温かいのに。