暗く静かな廊下には、岳の部屋の灯りが漏れていた。

「岳」

 ノックをすれば返事はあった。それは聞き逃してしまいそうな、小さな「ん」。

 扉を開け、まず目に飛び込んできたのは見慣れないベッドだった。岳はそれを手元のリモコンで操作して、背面をゆっくりと持ち上げる。

「あ、すずじゃん」

 小さい頃から知っている笑顔。だけどこんな姿の彼は知らない。
 鎖骨が浮き上がっていた。頬は痩け、目の下が窪んでいた。半袖から覗く白い腕は肘が鋭く尖っていた。一目で分かってしまうのは、彼が健康体ではないということ。

「岳、どうしたの……?」

 一歩一歩歩み寄り岳の傍、ぺたんと尻が床に落ちる。

「すず」

 すると力のない細い手が、私の手を緩く包んだ。岳の瞳の中に映る私は、今にも泣いてしまいそうだった。

「岳、どうして言ってくれなかったの……?」

 岳が学校に行かないなんて、おかしいとずっと思っていた。でもそれを、彼は私のせいにした。

「岳が病気だって知ってたら私……私もっとっ……」

 あなたに優しく接したのに。