青春卒業旅行

 「ただいま。」

 「おかえり!」

 龍仁もご両親も温かく迎えてくれる。お店の雰囲気と同じ、温かい家族の一員になれて本当に良かった。
 家に帰って、まず自分の部屋を目指した。
 あのノートだ。
 実家に眠らせてあると思っていたが、大学生になって引っ越したときに持ち出して以来、私が持ち歩いているらしかった。

 「あった…。」

 あのとき見つけたのと変わらない、色とりどりのハートが書かれたノート。マザーバックの中からオムツを捨てるのに使っている黒い袋を取り出して広げた。
 袋の中でノートをビリビリに破く。
 もうこのノートはいらない。この思い出ともさよならだ。あの痛みは確かに覚えているけど、この上ない幸せを手に入れた今、もう必要な思い出ではなくなっていた。
 しっかり封をして、オムツのゴミに紛れ込ませる。
 これでもう、さよなら。

 「舞音、行くよー。」

 自宅帰還祝いを兼ねた生後100日のお祝いお食い初めは、人見の御一家と私の母と一緒にあのイタリアンでするように龍仁が段取りをつけていた。赤ちゃんを寝かせられるように小上がりで赤ちゃん椅子もお願いしてある。さすが龍仁。

 「ひさしぶりだなぁ。」

 「ごめん、オレはひとりのとき、何回か来ちゃった。」

 「ええ! いいなぁ。ちょっと大きくなったらまた2人でも来たいね。」

 「うん。もちろん。」

 そんな話をしながらお店に入った。

 お店の隣に建っているおかみさんとマスターのご自宅には「柴田」と表札が出ていた。