「やっと泣いたね、旭陽」


そういって笑った莉音さんの目は、人の事を言えないほど腫れ上がっており、俺はまた涙を零す。


「ずるいんすよ。笑顔ばっかり置いて行って。前向けって言われてるみたいで」


莉音さんは、ぐしゃぐしゃと豪快に俺の髪を撫で、呟いた。


「澪音がね、言ってたの。

「唯一、我が儘を言ってしまう旭陽にはきっと悲しい思いをさせちゃう。忘れてほしいけど、きっと、優しいから、忘れてくれないと思う。

それなら、覚えていてくれるなら笑顔の私がいい。ずっと、私の笑顔を思い出して、明るく生きててほしい。だから、私は旭陽の前では笑顔でいたい」

って。頑固なんだよねー、澪音は。」


莉音さんは、前髪をかきあげ、苦しそうに表情をゆがめた。

そして、震える唇で、呟く。


「やられたね。ずっと逃してくれないよ、澪音。無理にでも明るく生きなきゃ。きっと怒られる」

「ですね。今もすぐ近くにいて監視されてる気がします」


悪口のようなことを言い合って、俺と莉音さんは、涙目のまま笑った。


澪音が、大切にしたいと願ったこの初恋を、

俺も、大切にしまって、歩いていく。