「帰らないで。いなくならないで」


私は感情のままに、そんなことを呟いていた。

珍しく感情的な私に、旭陽は繋いでいた手を両手でつかみ、微笑む。


「どうした?澪音。なんか嫌な夢でも見た?」


優しい声に、私は首を振る。


「最近ずっと、怖いの。もう目が覚めないかもしれないって。起きたとき旭陽がいると安心する。だから、ずっといて」


震える手を旭陽はギュッと握った。

その目は不安そうに揺れていて、私は少し冷静を取り戻す。


「…あ…ごめん旭陽、無理だよね。昼間だってずっといてくれてるのに。」


言葉とは裏腹に、握ってしまう手のひら。


「澪音。ゼリー持ってきたよ」


戻って来た莉音ちゃんが口もとにゼリーを運んでくれて、ひんやりとした甘い味でその口は塞がれた。


「莉音さん」

「家は大丈夫だよ。旭陽さえよければだけど。無理はしないでほしいし」


話を聞いていた莉音ちゃんがそう言うと、旭陽は安心したように「俺は大丈夫です」と呟く。


「澪音、大丈夫。ずっといるから。安心して寝ていいから」


その柔らかい微笑みに、私は安心してもう一度目を閉じた。