やっぱり、自惚れでも期待でもなかった。

今日の花火大会は、私の人生最初で最後の恋が、ほんの少し実った時間だった。


「終わってほしくなかったな…」


どれだけ見上げてももう上がることのない花火に、私は震えそうな口角に力を込める。


「澪音、俺」

ごめん、旭陽。


「俺、昔も今も、」

本当は忘れられていたのに、私が中途半端に近付いたから。


「澪音が好きだ」

自分勝手な思いで、旭陽の気持ちを揺さぶって巻き込んでしまった。


告げられた思いに、私は溢れ出しそうな感情を抑え、笑顔を向けた。


「私も、旭陽のこと大好きだよ。」


全ての想いを込めて、その一言は伝える。

嬉しそうに微笑んだ旭陽を止めるように、私は続きの言葉を口にした。


「だけど、それは恋人としてじゃない。」


旭陽は表情を変え、私を見つめた。


「私の好きは、旭陽の好きとは違う。」

「そんなのこれから変えて…」「変わらない」


説得するような旭陽の声に、苦しくなりながら私ははっきりとした口調で告げた。


「死ぬまで、変わらないの」


強く言い切った私に、旭陽は少しだけ俯き、そして小さく笑った。


「だよな。ありがと」


強がりの笑顔。笑ってない瞳。

全部分かるのに気付かないふりをして笑い返す。


「うん、私もありがとう。じゃあ…帰ろっか」


人の群れもかなり減った。

私たちは、ふたり、肩を並べて帰路につく。


今日1日、たくさん触れていた手のひらは、もうきっと、繋がれることはない。


少し前を行く旭陽の手を見つめながら、私は痛む胸を押さえた。