私の家の前まで来て、足を止めた旭陽。

すぐ隣の家が旭陽の家なわけだけど、私を送り届けてくれるみたい。


「じゃあね?また明日」


守れないかもしれない約束をすることにもすっかり慣れてしまった自分がいる。

罪悪感はあるけれど、真実を伝えるよりはずっとマシだった。


なかなか動かず、何か言いたげな旭陽に私は首を傾げる。


「澪音。7月15日、空いてる?」


突然の予定の確認に頭をよぎるのは、私は元気で居られているか。


「日曜日だよね?空いてるよ」


平然と答えたように見えているだろうか。

少し不安に思いつつ、旭陽を見る。


「花火大会、行かね?」


思わぬ誘いだった。

行きたい。瞬間的に、そんな思いが浮かぶ。


「…超いいじゃん!行こう!空けとくよ」


同時に浮かぶ、考えたくない将来をかき消すように私は旭陽に笑いかけた。

旭陽は、ほっとした様子で、私に背を向けて自宅へと入って行った。


玄関の扉を閉めて、倒れ込む。


「莉音、莉音ちゃん、いる…!?」


肩で息をしながら訴えると、すぐに母と莉音ちゃんが玄関へと出てきた。


「澪音…!?」

「お母さん、薬お願い。澪音、ここ冷えるからベッド行こう。」


莉音ちゃんに連れられてベッドに上がり、私はあふれ出す涙を必死で隠すように布団をかぶった。

身体の痛みに耐えながら私は祈る。


お願い、お願いだから、花火大会だけでいい。

これ以上は諦めるから。それまでもって。

頑張って戦ってよ、私。