大きな欠伸をしながら、廊下を歩く朝の8時半。

始業ギリギリだけど、特に急ぐこともなく足を進めると、廊下でひそひそと話すクラスメートの声が聞こえた。


「花岡さんの髪見た?」

「見たよ、校則ガン無視〜」

「超遊んでるとか聞くもん、怖いよね」

「あの見た目だからね、きっとそうだよ」


その話題は澪音で、俺は少し眉を顰める。

髪色は遊んでいるけど、一緒に下校して家も近所の俺は、澪音がそれ以外に怖がられるような奴じゃないことは、確かに分かる。

見た目だけで広まった、完全なる噂。

しょうもないと割り切ればいいものの、俺はイライラしながら教室のドアを開けた。


「お、旭陽おはよ」

「はよ」

「なに?機嫌悪くね?」


友人にそうおちょくられる程、顔に出ていたらしい。

室内でも、所々から澪音の名前が囁かれ、俺は小さく舌打ちをした。


「うわ、久しぶりに見た。ガチギレ旭陽」


友人たちの楽しそうな声は無視して、不自然に大きな声で、話しかける。


「澪音、髪似合ってんじゃん」