空を見上げると、とても良く晴れていた。
だけど私の心は台風でも起きているみたいだ。
自分の心を落ち着かせるために深呼吸をする。
魔法がかかったように心が落ち着いたような気がした。
気分がいいことを理由に今日は走って学校へ向かった。
 教室に入った瞬間ゾッとした。
いつも私に嫌がらせして来る例の男子が
私の席の隣の男子と話している。
横を通ったら話しかけられるかもしれない、
不安が押し寄せてくる。
それよりもその男子なんかに怯えている
自分が何よりも嫌いだった。
教室の入り口に立ち尽くしていると、
自分の大好きな声が聞こえてくる。
 「柚子ー!」
声がする方を振り向くと、満開の笑顔の
二羽(ふたば)がこっちに駆け寄ってきていることがわかった。
本当にこの声に、笑顔に何回救われたことか。
 『おはよー!!柚子!』
 「おはよ!その顔はまた課題忘れたな!」
 『えへへ、正解!写させて?』
「しょーがないな」
 『ありがとー!!柚子!今度お礼させてね!』
 「楽しみにしてます!」
私の机で繰り広げられる、いつもの会話。
妹とはどこか違う明るくて元気な声に癒やされて、
心が落ち着いている中心の片隅においてあった、
あの例の男子はどうなったんだろうと思って、
隣をちらっと見てみる。
うわ、まだいた。絡まれたら精神的にもう無理だから、
ささっと二羽の席に避難する。
 『どーしました柚子さん』
 「いやーちょっと避難してきた。」
 『アイツですか!』
 「そーですよ二羽さん」
なんで敬語なのかは私にもわからないけど
楽しそうだからいいや。
 『じゃあここ!教えて?』
 「ここは ――。」
 『おーなるほど!あざっす!』
 「もうない?大丈夫?」
 『大丈夫だと思う!』
私が返事をしようとしたタイミングで先生が入ってきた。
 「じゃあね二羽!」
 『うん!ありがとう!柚子!』
急いで席に戻ると、隣に例の男子はいなくなっていた。
私は二羽の前以外は「良い子」を演じなければいけない。
明るい二羽と少し怖いけど頼りになる莉桜(りお)には
本当の自分を見せることができる。
なんでだろう。
先生の話なんかそっちのけで理由を考えてみる。
そうしたらいつの間にか授業は終わっていて、放課後。
お腹が痛いな~とか頭がいたいなーって
思ったときはあったけどこんなに集中してたのは
初めてかもしれない。
トイレに行こうと思って立ち上がった瞬間、地面が歪む。
状況を理解できずに、だけどなんとなく
次の衝撃に備えて目を瞑った。
はず、だった。自分が倒れていないことを理解するのに
少し時間がかかってしまった。
 『大丈夫?』
その柔らかく、優しい声にその声の主がすぐに誰か分かった。
 「莉桜(りお)!ありがとう!」
『大丈夫?本当に。また無理したんでしょ?』
 「まぁむりってほ『したんじゃん、嫌なこととかあった
ときは私に声かけてって言ったでしょ?』
ハイごめんなさい」
莉桜に謝っていると、二羽の声が聞こえてきた。
 『柚子ー大丈夫?』
 「大丈夫だよ」
 『どうする?保健室行く?』
 「行かない。けど私の愚痴聞いてくれる?」
 『『もちろん!』』
 ふたりの声が重なる。
今までの嫌なこと、今朝の出来事、全て二人に話した。
二人は、嫌な顔1つせずに、泣きながら話している私を
そっと励ましてくれた。
今まで、溜め込んでいたものを全て吐き出すように
泣き叫んだ。