アラームで起きて見えたのはいつもの白い天井。
起きなきゃいけないのに、まだ私の体に張り付く睡魔の塊が、私を二度寝へと誘う。
そしていつものように私は二度寝をする。
そんな毎日。
 『柚子(ゆず)ー起きろ!!』
 『ん~…』
母の怒声で起きた私は重い眼を擦って布団から出た。
母に叩かれた肩を摩りながらリビングへ向かう。
リビングへ行くといつも通り優愛(ゆあ)の声が私の耳に響く。
優愛の、高くて元気な声に耳を塞ぎたくなった。
『お姉ちゃんおはよ!!』
『ん…』
優愛は沈黙なんて気にせずに、朝ごはんを頬張る。
母はいつも通り父のお弁当を作っていて、とても忙しそう。
まぁそんなこと、どうでもいいけど。
テーブルの上に置いてあったパンを適当に選び、食べる。
やたら甘ったるいパンを食べながら、今日は何があるか、回らない頭で考えてみる。
今日は何もないはず…
そんなことを考えていれば、パンは食べ終わっていた。
洗面所に向かって顔を洗おうとしたら、ボロボロの自分の手が目に映った。
あの時から、癖で続けてしまっている。
爪切りで指の皮をつまんで剥がす。所々、血が出ている。
身体に電気が走ったような、癖になる感覚。
最近は、ちょうどいい力加減を知ったから最初より頻繁にやってしまっている。
手の平には、幼稚園の頃から習っている和太鼓でできた、
まめや、水ぶくれ、血豆が潰れたあとが残っている。
さっさと顔を洗って自分の部屋に戻る。制服を着て、鏡を見てみると
スカートを履いている自分に違和感が残る。
傷だらけの汚い足を晒したくなかった。
小学校低学年の時にはスカートを履いていたけど
高学年になると汚い足を晒すことに抵抗が起きた。
それから中学校に入るまでは
一切スカートを履いていなかった。
もう自分の足を見たくなかったから。
 『やっぱ似合わないじゃん』
自分で自分を嘲笑うように発された言葉。
分かっていた、いや分かり切っていたそんな事。
私の学校では不幸なことにタイツは禁止されていて隠すこともできない。
みんなの白くてきれいな足の中に私の傷だらけの汚い足があったらみんな嫌だろう。
私は自分の足を一生見たくない。
スラックスにすればよかったなって毎回思うけど、いまさら何を言ってるんだろうと親も思うだろうし、自分も思っている。
まぁあと1年で卒業だし、スラックスが良かったなんて言えないし。
もし言ったとしてもお得意の正論パンチで叩き潰されるだけだ。
大人しくスカートを履いて、肩が凝るほど重いリュックを持って、リビングへ戻った。
 リビングへ戻ると、優愛の声が聞こえた。
いつものようにあーでもないこーでもないと
登校時刻ギリギリまで服を選んでいる。
それだけでも理解し難いのに更には忙しくしている母にまで助けを求めている。本当に見ていてイライラする。
優愛は見えないの?お母さんは今忙しいんだよ?なのになんでわざわざ助けを求めるの?
見れば見るほどイライラする。周りに気を使えない人、周りが見えない人は苦手だ。
でもそんなことでイライラする自分のほうが嫌いだった。
忙しいのに表情を変えずに、優愛とニコニコしながら接する母の姿を見てしまったら優愛のことなんてもう言えない。
この場の雰囲気を壊したくなかったら。
静かに、いってきますだけ言って家から立ち去った。