雨に濡れ、艶やかに咲き誇る紫陽花の庭を眺め歩きながら、この花のどの色が好きかと訊かれ、私は白が良いと申し上げました。
 目を細めたあなたが、なぜ、と重ねて問うたから、どの宝石よりもきらびやかで、それでいて無垢でしょう、と、私は口を緩めてみせたのです。

 先を歩くあなたを追う間、鮮やかな色合いの中にぽっかり浮いた、萎れたひと株が目に留まりました。
 桜と違って散ることを知らず、しがみつくように残る茶色の花びらを、あなたはきっと私に――あるいは私の、すっかりと色を欠いてしまった白髪に重ねたのでしょう。

 傘からぽたりと雨雫が垂れ落ち、冷たいそれが私の肌を濡らします。
 元より冷えたあなたの肌も、今、この雨に濡れてなおのこと冷えているのでしょうか。
 私には知る(よし)もございません。

 凍えた肌を誰にも温めてもらえないのは、私を置いていく、あなた自身の傲慢な選択ゆえ。

 ……かわいそうに。
 白い紫陽花が茶に変わりゆき、やがて萎れていくさまから、あなたは目を逸らすべきではなかった。

〈了〉