火照る肌を夜風が掠め、少しずつ気分が落ち着いてくる。
 それでいて、伸ばした指先が薄い唇を掠めたときの感触は、少しも消えてくれない。

 あなたに触れたときに覚えた身を焦がすような感覚は、決して届かない星空に手を伸ばすときのそれによく似ていた。

 触れれば溶けると知っていたなら、きっと私は手を伸ばさなかった。
 叶わない恋は叶わないままだから美しいのだと、ああ、どうして誰も私に教えてくれなかったんだろう。


     *
    ***
     *


 火照る肌を夜風が掠め、少しずつ気分が落ち着いてくる。
 それでいて、伸びてきた細い指が唇に触れたときの感触は、少しも消えてくれない。

 細い指も手首も、その気になれば簡単に掴めた。
 けれどためらった。触れればその瞬間、溶けてはいけないものが溶ける、そんな気がしたからかもしれない。

 手を伸ばすよりも早く、逃げるように背を向けて走り出してしまった君を――だんだん小さくなっていくその背中を、ただ呆然と見つめる。

 君は、まるで星空でも見上げるように僕を見ていた。
 隔てるものなんて、僕らの間にはなにひとつなかったのに。

〈了〉