月を背に笑うあなたを覚えている。
 なにをしていたときの姿かは、もう忘れた。

 忘れていく。少しずつ。
 曖昧となった背景へ溶け入るように、今では記憶の中の月もすっかりおぼろだ。満月だったか半月だったか、あるいは三日月だったか、そんなことさえ思い出せない。

 あなたも同じだ。
 どんな服を着ていたか、どんな髪型をしていたか、あるいはどんな目をしていたか……思い出したいと願えば願うほど、どれもこれも遠のいていくばかり。

 その顔がおぼろげになってしまう日も、悲しいけれど、きっとそう遠くない。

〈了〉