西日に焼かれ、交通標識が()(かん)色に染まっている。
 あまりの眩しさに、私は目を逸らして俯いた。

 蜜柑色――オレンジ色、山吹色、(だいだい)色。
 呼び方ならいくらだってあるのに、私はずっとそう呼んできた。
 なにか特別な理由があるわけでもない。強いて言うなら、幼い頃からそう呼んでいて癖になってしまっているだけ。

『せめてオレンジ色って呼べよ』

 不意に、君の楽しそうな声が脳裏を過ぎった。
 息が詰まる。蜜柑色は君の色だ。服も靴も筆記用具も、君は好んで蜜柑色のアイテムばかり手に取っていたから。

 結局、君とは別れた。
 付き合い始めてから三ヶ月程度だったと思う。

 私にしては短すぎる、そして君にしてはきっと長すぎる交際期間だった。
 なにか特別な理由があるわけでもない。強いて言うなら、君の周りから次第に蜜柑色のアイテムが減っていって、ちょうどその頃から君の目が他の女の子を追い始めたと気づいただけ。

 さよならは、私から切り出した。
 それでも、心の中にはこびりつくようにして残っている。
 君の蜜柑色が、目に沁みるほど鮮やかなそれが、いっそ君の顔よりも鮮明に。

 授業中や読書中、なにかに集中している間には綺麗さっぱり忘れていられるのに、ふと蜜柑色を感じたときには思い出してしまう。

 嫌気が差す。溜息のひとつも出やしない。
 交通標識も街路樹も古びた図書館の壁も、全部が全部、(ゆう)()の色。
 うんざりするほど鮮やかな、君みたいな蜜柑色。

〈了〉