僕は君の声が好きだった。

青春を表すかのような透き通った歌声も
あの爽快な歌声も
感情を乗せた歌声も
喉をきゅっと絞めたような儚い高音も
男らしさが滲み出る低音も
場を盛り上げる元気な歌声も
まるでその曲はずっと君の歌だったかのように
君そのものにしてしまうことも。
二面性のあるような声も。

聴いているだけで元気が出て、君の歌を聴くだけでどんな言葉よりも靄のかかった道がすぐに消えて、どんなに暑くても君の夏を表すような歌声が暑ささえも掻き消し爽快さを与えてくれる。君の夏歌を冬に聴けば爽快さえも心地良くて。辛くなったときに聴けば寄り添ってくれて、余計に泣いたっけ。君の良さを声だけに留めてしまうなんて
どんなにもったいないことか。
だけどもったいないことをしてしまうくらい君の声の良さについて考えてしまう。
この言葉だけで君の良さが計りしれていいものか。
だけどここに記させてくれ。
僕はもう君の声を思い出せなくなっているのだから。
君のことを想って想ってもう君の歌を聴くことが日常化
さえしているのに、ふと思い出すと君の声が霧がかかったかのようにぼんやりしてしまうことがあるんだ。
君以外は思い出せるのに。僕は泣きそうで堪らなかった。君の歌を聴いてきたのに。人間は声から忘れていくと知っていたから。それと同時に怖くなったよ。
本当に君を好きだったのか。
とても怖くて答えを探し歩いた。
だけどね、僕は安心したんだ。
想っていた人ほど顔や声を思い出せないことがあるらしいんだ。それはきっと君との思い出を一瞬でさえも取りこぼさないようにと目に焼き付けていたからかもしれないね。だけど、顔を思い出せないのは緊張や君といれたことの
嬉しさで瞳孔が大きく開いているからだそうなんだ。
なんて残酷なんだろう。それでも僕は君の歌を聴き続けたよ。君の歌はいつ聴いても良くてね。武道館に僕は一人でぽつんと座って君の歌声を初めて聴いたあの感動に浸りながら大音量で君の歌声を流してそこで一生を終えたいくらいだよ。

だけどそうもいかないみたい。
僕はスマートフォンにイヤホンジャックを挿して
周りの音なんて聴こえないくらい君の一番好きな歌を
流して空へ征く。
君のような煌びやかなあの空へ。もう周りの音なんて聞こえない。僕には何も聴こえない。だけどほんの最後だけ
君の歌声が聴こえた気がした。なんだ、やはり僕はまだ君を忘れていないみたいだ。
でもあの空への切符がもう近い。
またあの空で大きな武道館で聴くとでもしよう。またね。やっぱり僕は君の声が好きだった。