神楽くんと一緒に帰った日から1週間が経過した。

この1週間、何の進展もあることなく時間だけが非情にも過ぎてしまった。

少女漫画や恋愛小説でもあるような展開は、あくまでフィクションであり、現実はそう上手くはいかないのだと思い知らされた。

唯一の接点といえば、放課後の掃除当番が同じになったことくらい。

その時ですら、会話をすることはほぼなく、「これどこに捨てるの?」と業務連絡のような会話のみだった。

正直言うと、1週間前の自分が恥ずかしくもある。

勘違いをしてしまった挙句、当の本人には見向きすらしてもらえないなんて。

一体あの時の優しさは何だったのだろうか。それに加え、なぜあの日だけ一緒に帰ろうとしたのだ。

寄っては離れられたことで、益々私の想いは募るばかり。

恋愛テクニックでもあるように、押してはダメだったから離れたのだろうか。

それにしても、離れすぎではないだろうか。

離れるにしても1週間で、話した内容がたった一言はやばくないか。

頭の中が悶々とするが、現状はどう頑張ったところで変わることはない。

私からアクションをするのが、先決かそれとももうしばらく待っているのが正解なのかわからない。

ただこれだけは言える。待てば待つほど、私の残り時間は限りなく0に近づくということだけは。

「おっはよ〜!」

閑静な朝の住宅街に響く、どこまでも透き通っていきそうな元気のいい声。

振り返らなくても分かるのは、彼女とは長い付き合いを経ているから。

トンっと肩に手を置かれる。たったそれだけのことなのに、私には羨ましく感じてしまう。

彼女の温かみのある手に...

私には失われてしまった人の温もり。かろうじて残ってはいるものの、決して温かなものではないだろう。

人に触れてしまえば、「冷たっ」と言われかねない温度。

自分ではどのくらい冷たいのか認識できないのが辛いところでもある。

「おはよう」

肩に置かれた手を意図的に握り返さないように、手が置かれた肩を少し下げて自発的に手を肩から下ろさせる。

特に不思議がる様子もなく、結衣の手は元の位置へと戻された。

まだ肩には、結衣の熱がほんのりと残っている。

私が喉から手が出るほど欲しくてたまらないもの。

みんなが当たり前のように持っていて、特に意識することもなく日常を過ごしているのに...

「琴音、今日体調悪い?」

ビクッと心臓を手で触れられたかのような感覚が全身を駆け巡る。

「わ、悪くないよ?」

「なんかいつもより顔色が優れないから、体調悪いのかと思っちゃった」

「あー、実は昨日夜更かししちゃってさ。もしかしたら、それで顔色悪く見えるのかも」

つらつらと次から次へと嘘を重ねる。こんな自分に心底嫌気がさす。

そんな嘘を微塵も疑うことのない結衣を見ていると、心がギュッと締め付けられるくらい苦しくなる。

余命のことを知ったら、結衣はどんな感情を抱くのだろう。

悲しみ? 怒り? 哀れみ?

どれも今の彼女からは想像のできない姿ばかり。

「・・・ごめんね」

「ん? 何か言った?」

「ううん。何でもないよ。そういえばさ、今日の宿題さ・・・」

あと何回結衣とこの道を歩けるのだろうか。結衣は、何百回、何千回と数え切れないくらい通るであろう道。

その回数の中に私はどのくらい残れるのかな。

10回...いや、もっと少ないかもしれない。

昨夜積もった雪についている無数の足跡。

誰かが通った際につけられたもの。

私の生きた証も足跡のようにくっきりと誰かの心にでも残り続けるのだろうか。

時の風化と共に、薄れゆくのではなくいつまでもいつまでも誰かに想ってもらえる人生を歩みたかったな。

道端に咲いた名も知らぬ花に積もった雪を手に取る。

以前はひんやりとした感覚が肌を伝ったが、今は何も感じられない。

冷たいはずなのに、冷たくない。不思議な感覚だった。

雪は冷たいものとばかり思っていたことが、冷たく無くなるなんて。

雪を失った花は、本来の輝きを取り戻したのかいつもよりも美しく、逞しく見えた。

「綺麗・・・」

ふと視線を手に戻すと、そこには熱で溶け切れないまま残された雪の塊が手のひらに残り続けていた。

形を一定に保ったままの白い結晶を眺めたまま、私は寒さに震えながら雪と一体になるのを感じていた。