「①恋とは、音が違うこと」
「お、おと……? それって何の音?」

「……」
「まさかヒント終わり⁉」

 何も喋らずニコリと笑った佐々木くんを見て、愕然とした。さっきまで「恋をしることが出来る」と自信があったけど、むしろ今は更に謎が深まった気がする。

「佐々木くんって……、やっぱり意地悪だよね?」
「俺は一言も〝優しい〟なんて言ってないけどね」

 ニッと笑った佐々木くんに、また〝いっぱい〟食わされ、しずしずと引き下がる。そして、耳を澄ませてみた。

――①恋とは、音が違うこと

 佐々木くんのヒントが答えに繋がるのは、きっと、まだまだ先のこと。だけど、身近な音をこばさないよう聞いていこう。そうすればきっと、恋のシッポくらいはつかめるはずだから――そう思って耳をすませる。すると聞こえて来た音は、

 グルル。

「盛大な、お腹の音……」
「ごめん、実は朝ごはんを食べ損ねてさ。恥ずかしいところ見られちゃった……」

 その場に座りこむ佐々木くん。立つと、私より20センチ以上も高いから、私が見降ろしているのが不思議な気分。彼は恥ずかしいのか、暑さとは違う顔の火照りを見つけてしまった。

「佐々木くんも、照れるとかあるんだね」
「わざわざ言っちゃうんだ……」

 すると佐々木くんは、更に顔を赤くした。なんだか、佐々木くんの新たな一面を見られて新鮮かも。思わず「ふふ」と笑みを漏らすと、佐々木くんから無言の視線。自分の口に蓋をするように、ポンと手で押さえた後。ポケットに入れていた飴の存在を思い出す。

「良ければ、どうぞ」
「わ、おかし! それもソーダ味だ。暑い今にピッタリだね」

 お眼鏡にかない、ホッと安堵の息をつく。そして授業が終わるまで、飴を食べながら二人で時間をつぶした。