「しなくていいところで、自分を下げないの。それに、さっきも言ったでしょ? 当たり前を当たり前と思わない空峰さんが俺は好きなの。だから――自分に魅力がなくて当たり前、なんて思わないようにね」
「は、はい……、ん?」

 さっき、聞き間違いじゃなかったら……佐々木くん「私のこと好き」って言った?

 さびたロボットのように、ギギギとゆっくり視線を移動する。私の隣、佐々木くんへと。

「さっき私に、なんて言った?」
「告白した、好きって言った」

「やっぱり……って、えぇ⁉」
「ふふ」

 驚く私を見て、なぜか佐々木くんが満足そうに笑う。私の反応が、とっても面白いらしい。だけど、佐々木くん。これは驚かない方が無理だって。

「私のこと? なんで、どうして?」
「さぁ、どうしてだと思う?」

 質問をスルーする佐々木くんに「意地悪」と呟いたあと。すごい音で心臓が鳴っていることに気付いた。制服の上から見ても分かるほど、拍動してる。そうか、これが不意打ちってやつかな。ビックリして、心臓が高鳴っているんだ。

「ドッキリなら、今ここで白状してくれたら怒らないよ?」
「……言ったでしょ」

 佐々木くんは、立ち止まる。そして私と向き合った。

「当たり前を当たり前と思わない空峰さんが好きだって。

 俺が空峰さんを好きなわけないっていう当たり前、今、ここで取っ払っちゃってよ」

 そんな事を言う佐々木くんを、やっと雲から顔を出した月が照らしていく。そこで初めて、佐々木くんの表情を見た。夜空の下で不安定に揺れる私とは反対に、佐々木くんの赤くなった顔は、まるで街灯のようにハッキリと、私に「好き」を伝えていた。