「よし、これでオッケー」
「つ、疲れたぁ〜」
別棟の掲示板にも、全て貼り終えることが出来た。外は、もう真っ暗。
「今日のお礼に送りますよ」
「どうもどうも」
ぺこり、頭を下げると、佐々木くんに笑われた。え、なんか変なことを言ったかな?
「お礼に送るって言葉を、素直に受け止めるとは思わなかった」
「え?」
「こんな真っ暗の中、女子を送らない男子はいないから。お礼なんかじゃないよ、当たり前のことだよ」
「そう、なんだ……」
私って、本当に恋をしたことがないだなぁ。と痛感すると同時に、経験値の浅さを笑われた気がして、カッと顔に熱が集まる。今が真っ暗で、本当に良かった。
「さ、佐々木くんはさ、」
得意の話題変換で、恋の名残を振り切ろうとする。だけど、
「そういうところがいいよね、空峰さんは」
「……え?」
そう言うって、どう言う?
不思議に思って首を傾げると「それだよ」と。佐々木くんは笑った。
「当たり前を当たり前だと思わないところだよ」
「つまり、捻くれ者?」
「そういう間違った解釈するのも、俺はいいと思う」
「!」
「いい」って、そんな連発しないでほしい。佐々木くんは慣れてるから躊躇なく口にできるんだろうけどさ、自分の気持ちを素直に話す事すら難しい私にとって、ストレートな言葉は恥ずかしいよ。
「……ねぇ佐々木くん。聞いてもいい?」
「もちろん」
でも……。こんなにも自分の気持ちを話してくれる佐々木くんだからこそ――聞いてみたい。
ドキドキする心臓を、制服の上からぎゅッと握る。下駄箱で靴に履き替え歩いて帰る私たちの頭上で、見守るように星が瞬いていた。
「佐々木くんは、恋をしたことある?」
「俺? もちろん」
もちろん、なんだ。そりゃそうか、もう高校三年生だもんね。恋してるのは、当たり前か。私なんて初恋もまだだよって言ったら、佐々木くんはビックリするだろうな。
「……っ」
「実はね」とぶっちゃけようか、それとも「そうなんだ」で終わらせようか迷っていた時。佐々木くんから、まさかの質問返しが飛んでくる。
「空峰さんは?」
「え?」
「恋したことあるの?」
「……」
迷ったけど、ここは素直に「うん」と頷いた。今が夜だから、素直になれたのかもしれない。私の赤面は、瞬く星以外は見ていないから。
「私ね、恋に夢中になれなくて。人を好きになったこともないの。もう高校三年生なのに、変だよね」
暴露したものの、自分で自分をどう扱っていいか分からない。だから、とりあえず自虐ネタでカバーする。だけど佐々木くんは「言ったでしょ」と、暗闇を跳ね返すほど爽やかな笑みを浮かべた。
「空峰さんのいいところは、当たり前を当たり前と思わないところだって。いいじゃん、恋をしていなくたって。それで空峰さんの魅力が減るわけじゃないし」
「ぷっはは、私に魅力なんてないない」
思わず吹き出すと、「こら」と佐々木くんに叱られた。