「星カップル……かぁ」
部活がなくなった放課後は、本当にすることがない。だから仕方なく受験勉強を……と思ったけど、閑散とした教室に一人。今ごろは皆、星カップルだなんだといって、好きに遊んでるかと思うと、みるみるやる気は削がれた。
「恋って、そんなに楽しいのかな?」
ボソリと呟いた、その時だった。
「あ、一番星だ」
「ッ!」
お思いもしない声に、ビクリと体が跳ねる。見渡すと、誰もいない。
え、今……どこから聞こえた? まさか幽霊――
「後ろ、見て」
「え、あ……」
振り向くと、私が座る後ろの席に、一人の男子がいた。黒髪で、爽やかな風貌をしている。えっと、誰だっけ。確か同じクラスの、
「佐々木」
「あ、そう。佐々木くん」
ポンと手を叩くと佐々木くんは眉尻を下げた。
「同じクラスなのに、その反応はないよ」
「ごめんね、ちょっと頭のなか混乱しててさ。整理中でした」
すると佐々木くんは「整理?」と首をひねる。
「終活とかじゃなくて、整理?」
「うん。あと二週間で死ぬって実感ないけど、周りの皆を見てたら、あまりにも非日常で。そういうのを続けてみると、やっぱ死ぬんだなーって。その繰り返しなの」
「へぇ。整理って言うか、堂々巡りだね」
「う……。その通りです」
核をついた言葉に、ドキリとする。何も動かない自分がグルグル考えてるだけで、他の皆は残りの人生を謳歌してるんだなって。そう思うと、どこからかやってくる焦燥感に、足の裏をくすぐられてる感覚になる。モゾモゾ落ち着かない。
「さ、佐々木くんは? どうして学校に?」
「俺は、ほら」
ほら――と共に視界に現れたのは、たくさんの掲示物。私と弥生ちゃんが見た「死ぬまでにしたいこと」と書かれた掲示物も混じっている。
「もしかして、学校中の掲示物を張り替えてる?」
「そうそう。皆がコレを見てくれたら嬉しいなぁって思ってさ」
コレ、と言いながら掲示物をヒラヒラはためかせる佐々木くん。「星カップル爆誕」の文字がちらちらと私を覗いている。
「じゃあ、コレ作ったのも……佐々木くん?」
まさかね、と思っていると、そのまさかの「そうだよ」の答え。どうやら私が顔をしかめて見た掲示物は、目の前にいる人の手によって生み出されたらしい。しまった、思いっきり悪口言っちゃってた。
「すごく、ごめんね……」
「なにが? それより、空峰(そらみね)さんは暇? なら手伝ってほしいんだけど」
「手伝う? なにを?」
「掲示物。まだ別の棟に張る作業が残ってるんだ」
ニッと笑う佐々木くんに、失礼ながら首を傾げた。だってさ、佐々木くん。二週間後に地球は滅びるんだよ? それなのに、今さら掲示物を張ったところで意味無いじゃん。
だけど、佐々木くんの意志は固かった。
「やろうよ。それに俺、見ちゃったんだよね」
「何を?」
「空峰さんがコレを見てくれてたの。俯いた顔を上げて、わざわざ見てくれた。それも一度だけじゃないのを、俺は知ってるよ」
「!」
「だから、意味ないことじゃない。この掲示物を張ることは、誰かの気持ちを前向きにする効果があるんだ。だからさ、手伝ってくれる?」
「……うん」
佐々木くんの意思は固いだけじゃなく本物だったと。自分自身で証明してしまった。この掲示物を貼ることには、きちんと意味があるんだと――
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