意味が分からなくて、弥生ちゃんを見ながら首を傾げる。そんな私の顔と同じ角度に倒されたスマホが、目の前に現れた。画面に写ってるのは「星カップル爆誕」と書かれた、男女が写っているプリクラ。

 写っている女の子は弥生ちゃん。男の子は、隣のクラスの男子だったかな?

「え? ん? カップル爆誕? もしかして……」

 最後の方、ピョンと上ずった声は、後から流れてきた唾により、かき消された。顔面蒼白な私と、ニコニコ顔の弥生ちゃん。

「そう、昨日から付き合ったのさ。ついに私もカップル、カップル~」
「えぇ……」

 つい、この間。校門を出るカップルを冷めた目で見ていたというのに。今じゃ弥生ちゃんが、そのカップルそのものと化していた。

「早抜けしてごめんね~」
「いや、私はそもそも恋に興味がないから……」

 と言いながら、廊下に張り出された掲示板を見る。そこには、以前招集されたアンケート結果が載っていた。


【 地球滅亡までにしたいことベスト3 】

№1 恋
№2 友達と遊ぶ
№3 ひたすら寝る


「……うそ」

 絶句しながら、視線を下にずらす。そこには【 目指せ星カップル☆ 】の文字。
 星カップルって……。そう言えば、さっき弥生ちゃんのプリクラにも同じ言葉が書かれてた。

「ねぇ弥生ちゃん、星カップルってさ」
「あー、それね。私も最初、意味が分かんなかったけどさ」

 と言いながら、意味がわからなかったはずの「星カップル」の説明を、弥生ちゃんは流暢にしてくれた。

「最近うまれたカップルの事を、星カップルって言うんだよ」
「なんで星なの?」

「〝死ぬまでに恋したい〟っていう勢いだけで付き合うからさ。価値観が合わなかったりだとか、なんとかかんとか。とにかく破局の速さがすごいの。それを流れ星の速さに例えて〝星カップル〟」
「へぇ……」

 現実的な理由なだけに、ファンシーなネーミングが浮いてる気がする。っていうか爆速で別れるなら、そもそも付き合わなくていいじゃん。なんで皆、そんなに必死なの?

「ねぇ弥生ちゃん。いま楽しい?」
「それって、恋って楽しい?って聞いてる?」

 コクンと頷くと、弥生ちゃんは一拍置いた後に答えた。

「まぁ……これはこれで、私の残りの人生悪くないからなって思うんだよねぇ」
「そんなもん?」
「うん。詩織もさ、誰かと付き合ってみれば? 恋とは何か、死ぬまでに分かるかもよ」

 そう言った弥生ちゃんの顔には、校門で見たカップルと同じ表情が浮かんでいた。