「これでヒントは終わり。どう、恋について何か分かった?」
「……まだ、分からない」

 呟くと、佐々木くんは少し目を開いた後。何事もなかったように「そう」と笑った。

「焦らなくていいんだよ。と言っても、三日後には死んじゃうから……そうだな。三日後。良ければ、またここに来てよ」
「え、学校に?」

「俺も来る。空峰さんさえ良ければ……って、人生最後の日に、なんで学校にって感じだよね。ごめん、忘れて」
「……ううん、行くよ。私、学校に行きたい」

 学校に来てほしい。それは、裏を返せば「告白の返事を聞かせてほしい」という意味だと分かって。私は静かに頷いた。

「でも普通は、家族や大事な人と一緒にいるもんじゃないの?」
「佐々木くんも知ってるでしょ。私が当たり前を当たり前と思わないこと。それに……佐々木くんは、もう私の中で大事だもん」

 すると驚いた顔をした佐々木くんは「ありがとう」と、笑って、何度か頷いた。そしてお互い何を話すでもなく、掲示物の張り替え作業に戻る。
 その後は、ずっと沈黙だった。だけど、それを心苦しいとか気まずいとかは一切思わなくて――むしろ佐々木くんといるからこそ心地よくさえ感じた。

「じゃあ、また明日ね」
「うん、また」

 学校から帰った後も。私の頭の中には、佐々木くんと佐々木くんのヒントでいっぱいだった。ヒントは全て揃った。三つのヒントから、私は「恋の正解」を見つけないといけない。

 ①恋とは、音が違うこと
 ②恋とは、順番ができること
 ③恋とは、始まりがあっても、終わりがないこと

「……佐々木くんを前にすると、いつもの私じゃなくなるのは分かるんだけど。これが、恋っていうことなのかな?」

 佐々木くんといたら嬉しいし、楽しい。話し掛けてくれたら喜んじゃうし、帰る時は寂しくなる。こういうのが、恋ってこと? だけどヒントを何も活かせてない気がする。佐々木くんが私に言いたかったことって……こういう漠然とした答えではない気がする。

「う~ん……」

 と悩んでいた、その時だった。けたたましい音で、自分のスマホが鳴り始める。それは私だけではないようで、家中から聞こえてくる。家族みんなのスマホが、同時になったらしかった。

「え、っていうことは……――」

 会社も機種も違うスマホが、同じ時刻にアラームを鳴らすということは……非常事態の通知。まさか、と思って画面を見ると、そこには「巨大隕石飛来」と大きく文字が出ていた。

【 ただちに地下や建物内に避難せよ 】

 この文字を見て、頭が真っ白になる。だって、予定では三日後じゃないの? あと三日、私たちの命は残ってるんじゃないの?

「詩織! こっちに来なさい!」
「お、母さん……!」

 慌てて部屋に入って来たお母さんが、私の腕を引っ張る。なすすべもなく、皆でリビングに一つになって固まった。ニュースはずっとつけてる。だけど聞こえてくるのは落ち込む内容ばかり。日本を簡単に飲み込む大きさの隕石が、各国の上空から飛来していること。宇宙から隕石の映像が届くも、カメラのフレームにおさまりきらず、映像は途中で中止になった。アナウンサーは毅然とした態度で原稿を読み上げているけど、目には涙がたまっている。……我慢してるんだ。このアナウンサーだって、本当は原稿なんか読みたくないはずだ。家族や大事な人に電話をして、安心する声を聞きたいはずだ。
 その時。佐々木くんの言葉を思い出した。

――限られた余命の中で人生の後悔がないよう行動するのは、何よりも尊いことじゃないかな?

「……っ」