――と、なんだかんだで放課後は、すぐに来る。
佐々木くんは掲示物を手にして、私の机まで来てくれた。そして「行こうか」と、いつかと同じく先頭を歩いてくれる。
「じゃあ、私は前の掲示物をとっていくね」
「うん、よろしくね」
私が前の掲示物をはがし、佐々木くんが新しい掲示物を貼っていく。剥がしている時に、「みんなが死ぬまでにやりたいことベスト3」の文字が見えた。
「このアンケートってさ、いつとったの?」
「クラスの人から順番にって感じかな」
「大変だったでしょ?」
「そうでもないよ、アンケートはネット上でとったからさ。一度作っちゃえば楽なもんだよ」
すごい、佐々木くんって学生なのに、もうそんな事が出来るんだ。思えば、佐々木くんって何でもできる。アンケートを取ったり、掲示物を作ったり。それだけじゃなくて、私を励ましてくれて、力強い言葉を何度も与えてくれた。だけど……、三日後。そんな佐々木くんさえも死んでしまう。こんなにいい人なのに。
「よし、じゃあ次の場所に移動しようか……って。空峰さん、どうしたの?」
「え……」
どうしたのって、私……どうなってるの?
不思議に思っていると、佐々木くんが私の頬へ手を伸ばした。そして「泣いてる」と。温かい指が私の目じりをなでる。
「どうして泣いてるの? 何か新しい悩み?」
「私は、ただ……」
佐々木くんが死ぬのは嫌だなって、そう思っただけなのに。どうして泣いてるんだろう。私だって死ぬのに、自分の事よりも佐々木くんが死んじゃうことの方が、悲しくてツライ。
「悩み事……、ある」
「よしよし、話してみなさいな」
いつもの調子で聞いた佐々木くんは、次の私の言葉で固まった。
「佐々木くんだけ死なない方法、探したい」
「……え? なんで俺だけ?」
「だって……」と言葉を詰まらせる私は、はがした掲示物を胸の中で抱きしめた。
「佐々木くんは、死んじゃダメだよ。生きなきゃダメ。こんな優しい人が死ぬなんて、間違ってる」
「空峰さん……」
私がこんな事を言うなんて、たぶん佐々木くんはビックリしてる。でも、私もビックリだよ。まさか私が、こんな事を思うなんて。
「ありがとう、空峰さん。だけど、俺だけ生き残るなんて嫌だなぁ。だって俺は生きて、空峰さんは死ぬんでしょ?」
「え……、うん。そうだけど」
「なら、その〝生〟は俺にとって意味がないよ。好きな子がいない世界なんて、俺にとっては価値がないもん」
「佐々木くん……」
「価値がない」と言い切ってしまうところが、なんとも佐々木くんらしい。そんなに力強く自分の気持ちを言えるなんて……羨ましい。
「ごめん、変なこと言っちゃった」
「ううん、全然。むしろ嬉しかった」
嬉しい?と反復すると、掲示物を握る私の手に、佐々木くんはソッと手を重ねた。
「俺だけ生きててほしい――っていうのは、ともかく。空峰さんが俺のことを考えてくれてたっていうのが、嬉しい。空峰さんの頭の中に、俺がいるんだなって分かって……ごめん、顔がにやける」
「い、いつもの顔……だけど?」
すると「必死で隠してるんだよ」と、佐々木くんが笑った。その笑顔にドンッと体の内側を何かが叩いた感覚を覚える。……なに、今の衝撃。気のせいかな?
顔に熱が集まった気がして、パタパタ扇ぐ。すると佐々木くんは「あ」と、何かを思い出したようだった。
「俺らの余命もあと三日なわけだし、最後のヒントを言っちゃおうかな」
「えぇ、今⁉ 佐々木くんは、いつも急だよッ」
急いでスマホにメモを取ろうとする私を、佐々木くんはケラケラ笑って見る。そして――
「ヒント三つ目。
③恋とは、始まりがあっても、終わりがないこと」
全てのヒントを言い切った後、佐々木くんは真っすぐ私を見た。私の頭の中は、さっきのヒントよりも佐々木くんの顔がグルグル回っている。