「もしも途中で挫けそうになったら、いつでも電話して。何度だって背中を押してあげるから」
「佐々木くん、うん。ありがとう!」
コードを読みとり、今度こそ階段を下りる。まだ九時なのに学校を抜けるなんて。前の私なら、きっとしなかったと思う。だけど、佐々木くんがいてくれたから。私の背中を、押してくれたから。
「佐々木くん……」
ありがとう、の意味を込めて、連絡先を受け取った自身のスマホをギュッと握る。すると心臓が、ドクドクと音を立てて唸っていた。これから弥生ちゃんに会うから緊張してる? それとも走ったから心臓がビックリした?
いっこうに鳴りやまない心臓を時折さすりながら、私は弥生ちゃんの連絡先を表示した。
そして――
プルル
「もしもし弥生ちゃん、今どこにいる? その……会いたいの。弥生ちゃんに、すっごく会いたい!」
こんなことを私が言うなんて思わなかったのか、電話越しで弥生ちゃんが唾を呑み込む音が聞こえた。だけど、数秒後には「私も」と。震える声で返事をしてくれた。
――そして、弥生ちゃんの家に突撃した私は、弥生ちゃんに土下座をする勢いで謝った。すると弥生ちゃんの方も私に謝って来て、一気に謝罪合戦と化した。
「無神経な言葉を使った私が悪いんだから、私に謝らさせて!」
「恋に浮かれて、あんなヒドイことを言った私が悪いんだから、謝るのは私!」
「私だよ、わーたーし!」
「詩織じゃなくて、私!」
なんて。収集つかない事態になってしまって。高校三年生になってまで、なに子供じみたケンカしてるんだって、一周回っておかしくて、大きな口を開けて二人で笑った。
「じゃあ、せーので謝ろうか」
「それ、いいね」
そして、二人分の「ごめんなさい」は確かに互いの胸に届いた。その後ハグをして、会えなかった分の寂しさを埋めるように、二人でお菓子を食べたり女子トークをしたりと、かけがえのない時間をたっぷり過ごす。
「明日は、学校に行くから」
「……うんッ」
そう約束をし、弥生ちゃんの家を後にする。長居をしてしまったらしく、外は真っ暗。星たちが、晴れやかな表情を浮かべる私をキラキラと覗いている。
その瞬きの中に、佐々木くんの姿を思い出す。誰もいない三階で、私の背中を押してくれた、私の――
「私の……ん? その続きは、なんだろう」
私の友達?
私の恩人?
私の相談役?
私の……――
そう考えていた時、スマホがブブと鳴る。見ると電話で、なんと発信元は佐々木くん。急いで通話ボタンを押すと「あ」と、聞きたかった声が聞こえた。