「……はぁ」

 弥生ちゃんが学校に来なくなって、三日が経った。何度かメールを送るも、既読にはなるけど返事はなし。きっと体調不良とかではなく「もう学校に来ない」というメッセージに違いなかった。

「友情って、あっけないものだなぁ……」

 聞けば、弥生ちゃんと付き合っている隣のクラスの男子も、ずっと学校を休んでいるという。きっと今頃、二人で平日デートを思い切り楽しんでいることだろうな。
 地球滅亡の日が近づくにつれ、生徒が一人、また一人と登校しなくなった。当たり前と言えば、当たり前だ。あと一週間くらいで死ぬことが分かっているのに、学校に来る意味はない。
それでも学校に来るのは、よほど行く所がない人か、それとも――
 よほど学校に未練がある人だけだ。

「やぁ、空峰さん」
「……佐々木くん、おはよう」

 俯く私の視界に、突然現れたのは佐々木くん。いまだ登校している数少ない生徒だ。

「いやー、めっきり生徒が少なくなったねぇ」

 今ではクラスも学年もごちゃまぜで、一つの教室に集められている。授業はしないけど教室はかすからお好きにどうぞ、という学校側の意図らしい。と言っても、教室に留まる生徒は少なく、好き放題に校内を探検している。

「俺らも、今日はどこか探検する?」
「……」

 佐々木くんは、私が弥生ちゃんとケンカしたのを何となく分かっている感じだった。相談する内容でもないし、第一、告白してくれた人に「恋愛のことで友達とケンカした」と言うのは、なんだか気が引ける。

「探検、したい」
「おッ」

 いつもは「教室でいい」と言う私の、急な方向転換を佐々木くんは喜んでいるみたいだった。ガタッと勢いよく席を立って、私の手を引っ張る。

「じゃあ行こう!」
「ま、待って。そんなに慌てなくても」

 すると先頭を進む佐々木くんがピタリと止まる。そして「慌ててるんじゃないよ」と。私がいる後ろを振り返る。

「初めて空峰さんとデート出来るって思ったら、嬉しくかったんだよ」
「デ、デート……⁉」

 ボボンと、あからさまに顔を赤くした私に、佐々木くんの口角がクッと上を向く。ニヤニヤがこらえきれない、みたいな顔だ。

「言っておくけど俺、チャンスは無駄にしない主義だから。いくら空峰さんが悩んでいようが、目の前に両手を空けてる空峰さんがいたら、俺は迷わずその手を取るよ」
「佐々木くん……」

 言い終わってすぐ、ぎゅッと手を握った佐々木くん。その手が温かくて……直に伝わる体温に心が揺れる。

「なんか、安心するかも……」
「それは良かった」

 なら、このままで――と佐々木くんが言って、校内探検がスタートする。と言っても、三年間通い続けた学校だから、今さら探検したって面白みはない。入学したての新入生ならともかく……。

「あ、今〝つまんない〟って顔してる」
「う」

 ギクッ。
 気づいてたの、佐々木くん……。

「無言は肯定ととる、ってね。
 今さ、俺は空峰さんの顔が見えない。だから探検に暇してるなら、話してみたら? 自分の気持ち」
「え……」

 佐々木くんの提案に、また心が揺れる。
「佐々木くんに相談する内容ではない」と頭では分かっていながら、他に誰とも話さないから、胸の奥でずっとわだかまりが残ってて。誰かに話すことで、このわだかまりはなくなるんじゃないかって、そう思ってたから。