天文学だとか物理学だとか化学とか。
 そんなものは、よく分からない。
 だけど私が見聞きする日常に、突如として現れた言葉がある。

【 地球滅亡の日まであと一か月 】

 今日の特別ドラマは〝そういう系〟の映画ね。はいはい――くらいに思っていたら、それはフィクションではなく、正真正銘のノンフィクション。現実のお話しだった。

 スマホで見るニュースも、SNSも、街を彩るたくさんの液晶でさえも。色んな媒体から「地球滅亡」の言葉が聞こえて来た。
 もちろん、最初はみんな笑った。「なわけないだろ」って。だけど、ニュースキャスターが真剣な顔で話していたり、有名人が心配そうに眉を下げてみたり、いつもニコニコ笑顔のアイドルが口を閉ざしたり……。そんな「非日常」を目の当たりにすると、一般人の心は簡単に揺らいだのだった。

「ねぇ、本当なのかな? あの話」
「地球滅亡でしょ? ここまで言われるとね」
「信ぴょう性があるっていうか。もう認めるしかないんじゃない?」

 最初は口を揃えて「No」と言っていた世論は〝前ならえ〟により、あっけなく「Yes」に早変わりした。

 と言っても、だ。

 私のような、部活と勉強に明け暮れる高校三年生に、そんなことを言われてもだ。
 夏休み目前で、受験モードにアクセルいれかかっている時に「地球滅亡」なんて話をされては、何をしたらいいか分からなくなってしまう。

「結局、私たちは部活と勉強をすればいいの? それとも、最後の一か月を自由気ままに謳歌したらいいの?」
「あーねー。どうしろって言うんだろうね、本当」

 同じクラス、同じ部活同士。
 友達の弥生(やよい)ちゃんと、放課後、部活に行きがてら話をする。

 廊下には「学校通信」なる掲示物が張り出されていて、

【 地球滅亡までにしたいことベスト3 】

と。これまたベタなアンケートが提示されていた。

「ねぇ弥生ちゃんのしたい事ってなに?」
「んー。あんま考えた事なかったけど。まぁ自由にしていいなら、やっぱ友達と好きなことを好きなだけしたいよね」

「例えば?」
「遊ぶ。カラオケ行く」

「そんなの、ただの日常じゃん」
「あはは。日常に幸せを見出したり、なんてね」

 あっけらかんと笑う弥生ちゃん。
 だけど、はた、と。とある男女が手を繋いで校門を出る姿を見て、弥生ちゃんは足を止めた。

「まぁ、でもさぁ。
 一度でもいいから、あんなキラキラした笑顔で恋してみたいなって思うよ」

 弥生ちゃんに倣ってカップルを見る。
 確かに、キラキラしてる。二人だけの世界で、周りなんて見えてないって感じで。ベタベタしてるし、デレデレしてる。どストレートな感想を述べるなら、イタいカップル、だ。

「恋、ねぇ」

 地球が滅びるかもしれないってのに、恋だなんて。私だったら、一人でカフェ巡りしたり、ショッピングして好きな物を買いたいけどなぁ。

「今、〝恋なんてありえない〟って思ったでしょ」
「……分かった?」

「そんな顔されちゃあね」
「め、面目ない……」

 恋って、そんなにいいのかな。今まで恋をしてこなかったから、どうしても価値を見出せない。

「部活命。引退したら、今度は勉強命ってか? 詩織(しおり)さん」
「へ、普通そうじゃないの?」
「あははー」

 笑って誤魔化された。けど、別にその先を知りたいと思わなかったから、特に問い返したりしない。

――ねぇ、部活と勉強以外に大事なものなんてあるの?

 なんて。そんな質問、私には何の価値もない。
 だって私、恋に興味ないんだもん。