とうとう一学期が終わった。蕾生(らいお)にとってはとても長いものだった。
 ただのオカルトマニアだと思っていた(はるか)に転生の運命を聞かされ、鈴心(すずね)星弥(せいや)に出会い、銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)との邂逅を果たした後、(ぬえ)化を乗り越えた。今では敵だった銀騎(しらき)皓矢(こうや)の協力で呪いの解明をしようとしている。
 
 たった三ヶ月ほどで蕾生の意識も変わった。自分の中の訳がわからない力から目を背け、永の言う通りに生きていけばいいのだと考えていたあの頃は、きっと堕落していたのだろう。
 
 今では──たいそうな事は言えないが──少しは前向きになれた気がする。自分の中心に永がいるのはこれからも変わらない。けれど、自分の生きる意味を永に押し付けるのではなく、自分が永とともに生きたいのだと思う様になった。
 馬鹿な自分はこれからも永に面倒をかけるだろう。その分、永も鈴心も星弥も──自分の周りにいてくれる人達くらいは守りたいと思う。いつか鈴心が「強くなれ」と言ったその意味がやっとわかった。
 
「ライくん?何考えてんの?」
 
 すぐ横を歩いていた永は、無言で歩き続ける蕾生を見かねて目の前で手を振った。
 
「え、あ、別に」
 
「あー、通知表が全滅だったからおばさんに怒られたんでしょ!それともおじさんにもかな?怒ると閻魔様みたいだもんね!」
 
 カラカラ笑って事実を言い当てる永に、蕾生は内心コノヤロウと思っていた。
 
「あのな、こんだけ色々あっていい成績がとれる訳ないだろ。どんな変態だよ」
 
「どうも、変態です」
 
 恭しくお辞儀をして見せる永に蕾生は持っていたカバンを振り回す。
 
「ちなみに、その理論だと銀騎さんもリンも変態だね!」
 
「俺の周りは理不尽なヤツばっかりだよ!」
 
 カバンを華麗に躱して永はご機嫌で付け足す。期末考査で星弥に十点の差をつけて学年一位をとったのでとにかくルンルンなのだ。そこは蕾生にとっても高みの戦いなので別にどうでも良かった。
 問題は本来なら中学生のはずの鈴心も──転入生のくせに──三十番だったことだ。成績表を見せながら涼しい顔で「ライは後ろから数えた方が早いですね」と言ってのけた小憎らしい顔を、蕾生は絶対に忘れない。
 
「まあまあ、そんな怒らないで。せっかくの旅立ちが台無しだよ」
 
「お前が怒らせたんだろ……」
 
 今日はいよいよ雨都(うと)梢賢(しょうけん)の実家に行く。二人は支度を整えて鈴心を迎えに銀騎家に向かっている。